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<正GKの座を外されて> 楢崎正剛 考えるのは終わってからでいい。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byNaoki Nakanishi(JMPA)
posted2010/07/05 06:00
「自分も試合に出て戦っている……そう思っている」
どんなに綺麗事を並べても出場選手とそのほかの選手は違う。大きなアクシデントがない限り、大会中にGKが代わることはない。それを理解しながら、楢崎は必死で前を向く。
「自分も試合に出て戦っているって、図々しくも勝手にそう思っているんで……」
勢いよく言ったあと、照れくさそうに笑う。
「(自分に何かが)足りないと思い、自分の形を崩すようなことはしたくない。そのへんは冷静にやりたい」
ジーコジャパン時代、少ない出場チャンスでは「アピールしたい」と気合を入れて臨んだものの、立場は変わらなかった。そして、平常心こそが自分らしさだと悟った。
GKは常に“失点”という絶望と対峙するのが仕事だ。
「出るとか出ないとかじゃなくて、常にしっかりと練習すること。出ている選手と同じ意識を持たなくちゃいけない。チームメイトは日頃から僕の姿を見ている。手を抜いたりしたら、信頼も信用もされないから」
大会直前に先発を外される……厳しい現実に当初は心も折れた。怒りを抱いたこともあっただろう。しかし、GKとは常に“失点”という絶望と対峙するのが仕事だ。たとえ失点しても、何事もなかったかのように振る舞う図太さが求められる。集中力を切らさず、平常心を保ち続けねばならない。
W杯をひとつの試合と考えれば、日本代表が戦い続ける限り、楢崎の仕事は続く。そして、最後の試合の笛が鳴ったとき、彼の長い90分間が終わる。