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<正GKの座を外されて> 楢崎正剛 考えるのは終わってからでいい。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byNaoki Nakanishi(JMPA)
posted2010/07/05 06:00
「やることは一緒。考えるのは終わってからでいい」
「(外された理由を)考えることは、今はいらないでしょ。切り替えるというのとは違うけど、どんな立場であれ、やることは一緒。考えるのは終わってからでいい」
カメルーン戦での勝利には心底喜んだ。
「試合に出ていないから複雑、ということはない。サッカーは11人だけでやるものじゃないから。“チームが勝つために”と全員が同じ方向を向くことが大事。それを4年前に痛感した。そりゃ、誰もが試合のピッチに立って、主役になりたい気持ちがあるやろうけど……みんなわかっていることでしょ」
初戦の勝利はチーム内の雰囲気の良さが生んだものでもある。川口能活、中村俊輔と楢崎以外にもベンチにベテランが座った。
「別になんもすることはないですよ。一番年長でもないし、キャプテンでもないし(笑)。逆に開き直ってた。まあ、キャプテンをいじったり……キャプテンいっぱいいますからね。よっちゃん(川口)に(中澤)佑二やハセ(長谷部誠)、それに闘莉王も。ハハハハ。それを全部いじるのが俺の役目やから」
ピッチ外での“仕事”を褒められるのは好きじゃない。
'07年、オシムジャパンに楢崎が初招集されたとき、中澤が「ナラさんも若手にイジられているし、ナラさんが来てチームの堅さがなくなった」と話していたことを思い出す。
チーム内に不協和音が生じたといわれるドイツ大会終了後、「(控えの立場でも)やれることがあったんじゃないか」と語った楢崎なりのピッチ外での“仕事”。しかし、それを褒められることは今も昔も好きじゃない。
「ベンチの役割をするために、こんなに遠いところへ来たわけじゃない。そういう気持ちが前提にある。(4年前と)同じような立場やけど、今回は前回とはまた違う。意味が違う」
長く控えGKであり続けた前回と、最後の最後で先発の座を失った今回とでは、悔しさの質も強さもまったく違う。
取材陣に「デンマーク戦を前に、決勝トーナメント進出が懸かった日韓大会第3戦に先発した経験から、チームメイトに伝えたいことは?」と問われて、次のように答えた。
「1、2戦目で得た自信や手ごたえがあるから、それを出せれば十分にできると思う」
ピッチに立つ11人以外の選手も含めて一丸となり戦っている。しかし試合に出ていない選手が何かをアドバイスするのはおこがましい。そんな思いがあるのかもしれない。それはアスリートとして自分と出場選手のプライドを尊重した態度にみえた。