濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
高校生コンビがプロのリングで見せた、
圧巻のKO劇と底なしのポテンシャル。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2010/06/21 10:30
名古屋・大石道場の三羽烏こと、日下部竜也(写真左)と野杁正明(写真中央)、小川翔(写真右)。高校生プロ格闘家として修練に励む
メイン抜擢でさらなる引き出しを開けた“怪物”野杁正明。
ヨースケは、層の厚い軽量級戦線の中で二番手集団のトップに位置づけられる選手。そんな相手に完勝した野杁に、プロモーターが用意したのはメインイベントの赤コーナーという破格のポジションだった。6月12日の『Krush-EX』新宿FACE大会。若手中心の小規模イベントながら、野杁は現役高校生としてプロ興行の“主役”となったのである。そしてこの試合で、野杁はこれまで開けてこなかった“引き出し”を披露する。
1ラウンドは白神喜弘が繰り出すショートレンジからのパンチ連打に後手に回った野杁だが、ブロッキングとボディワークで有効打は許さない。続く2ラウンドには、サウスポーにスイッチ。オーソドックスとまったく遜色ない動きで白神が重心を置く右足にローキックを集中させていった。
そして3R、充分に相手の足を止めた上で、野杁は左のストレートをボディに打ち込む。コーナーで崩れ落ちた白神は、そのままノックアウト。左右をスイッチする軌道修正からローキックによる“仕込み”、そしてボディブローの“仕上げ”まで、その技巧と試合運びは一流というほかなかった。
「『腹が効いてる』というセコンドの声が聞こえたので」
さらに驚かされたのは、試合後の野杁の言葉である。「ボディで倒したのは初めてですけど、もともと得意だし、『腹が効いてる』というセコンドの声が聞こえたので」。またサウスポーへのスイッチに関しては「今まで試合で使ったことはないです。ただ普段から練習してるので」とこともなげに言ってみせる。この世界には試合中に熱くなってセコンドとのコミュニケーションが取れなくなってしまう選手や、実力を半分も出せない選手が多いというのに……。
日下部と野杁の試合を見ていると、様々な思いが頭をよぎる。いったい、どれだけのポテンシャルを秘めているのか。このまま成長したら、どこまで強くなるのか。所属する大石道場では、どんな練習をしているのだろう。いつか挫折を味わう日はくるのだろうか。いや、向こう15年は彼らの時代が続くのではないか――。
単に巧い、強いというだけでなく、日下部と野杁は見る者の想像力を刺激する。その点でも、二人はすでに一流のプロフェッショナルなのだ。