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大学経営、テーマパーク建設も浮上!
売上世界一、レアルの多角化戦略。
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byReal Madrid via Getty Images
posted2012/09/19 10:30
レアル・マドリーのホームであるサンチャゴ・ベルナベウ・スタジアム内のトロフィー展示場。リーガ制覇32回、欧州CL制覇9回、コパ・デル・レイ(スペイン国王杯)制覇18回という抜群の実績と知名度が、様々なビジネス展開への推進力となる。
世界各地で大学を設立、テーマパーク構想も。
これらに加え、なんとレアルは2006年から教育事業にも参入している。The Real Madrid University Studies School - European University of Madrid を設立し、世界に広がる12のキャンパスでスポーツビジネス領域でのプロフェッショナルの育成を行っている。アニュアルレポートによると、2010年度には650人が入学、設立からすでに1100人もの卒業生を送り出しているという。さらに、2015年には、アラブ首長国連邦に「レアル・マドリー・リゾートアイランド」という名のテーマパークをオープンする構想もあり、まさに成長路線を突き進んでいる。
アンゾフのマトリックスとは何か。
ここで、上記の取り組みを元に彼らの成長戦略を分析してみたい。
成長の方向性を考える上でよく使われるフレームワークの1つにアンゾフのマトリックスがある(下図参照)。
図中左上「市場浸透」とは、現在の市場で現在の製品の利用頻度を増やすなどしてシェアを拡大し成長することを指す。例えばポイントカードシステムを導入するなどの施策があてはまる。「新製品開発」は、現在の市場に新商品を投入し成長すること、「新市場開拓」は現在の商品を新市場に拡大し成長すること、そして「多角化」は新市場に新商品で攻めて成長することである。
上述したレアルの取り組みを改めてこのフレームワークに当てはめてみよう。
【市場浸透】 マドリディスタなどコアなファンとのコミュニケーション深化を行い、さらなるチケット購入などを促進
【新製品開発】 本来のチケット収入だけではなく、試合観戦に付随するスタジアムツアー、レストランなどのコンセッションからの収入を増大。さらにグッズ販売などを充実させ、マーチャンダイジング収入も増やす
【新市場開拓】 ワールドツアーを実施し海外ファンを増やし、また女性が好むようなグッズを販売することで、女性ファンを拡大
【多角化】 教育事業、テーマパーク事業など異事業への参入
彼らの成長戦略は、アンゾフのマトリックスのすべての成長のベクトル(方向性)を取り入れていることが分かるだろう。
成長確率の低い多角化はなぜ必要?
しかし、この4つの成長の方向性は同じ成功確率ではない。成功確率が最も高いのが市場浸透、そして新製品開発、新市場開拓と続き、多角化(新規事業)の成功確率が最も低いといわれている。
成功確率の最も低い多角化(新規事業)。しかし、この多角化(新規事業)に投資していくことこそ成長を描く上で欠かせないのである。なぜならば、既存のビジネスというのは永遠に成長するわけではなく、今のコアビジネスが衰退期を迎えたときに新たなコアビジネスとなるのがこの新規事業だからである。
既存のビジネス、現在のコアビジネスから利潤が得られるときにこそ、その資源を利用して次なるコアビジネスを育てるために新規事業を創っていくことが必要になる。全社視点で見たときには、既存のコアビジネスの資源を新規事業に配分しながら適切な資源配分を行うことが重要になるのだ。