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<ナンバーW杯傑作選/'02年6月掲載> 日本は燃え尽きたのか。 ~決勝T・トルコ戦、空虚な敗北~
text by
金子達仁Tatsuhito Kaneko
photograph byMichi Ishijima/Naoya Sanuki/Kazuaki Nishiyama(JMPA)
posted2010/05/19 10:30
強豪イタリアを追い詰め、奇跡を演じた韓国。
私には、信じられなかったのだ。こんなにも決勝トーナメントの試合があっさり終わってしまうことが。日本の選手が、こんな終わり方で大会を去ってしまうことが。
日本は、すべての力を出し切ったのだろうか。日本人が持っている誇りを、ポテンシャルを、すべてトルコにぶつけたのだろうか。ホームチームとの対決を終えたトルコは、満身創痍の状態で次のラウンドを戦わなければならないのだろうか。
違う。
空虚な敗北から数時間後、私は信じられない試合を見た。数年前、日本より明らかに実力的に劣っていたチームが、外国人である私にも伝わってくる必死さで、イタリアのゴール前になだれ込んでいた。先制点を奪い、磐石の態勢に入っていたはずの伊達男たちは、猛攻を耐えるのに精一杯だった。ココは顔面をザックリと割り、ついにはトッティがシミュレーションで退場を命じられた。この難関を乗り切ったとしても、彼らには大きな傷が残ることになる――私はそう思った。
韓国と日本の決定的な違いとは? 4年後への不安。
イタリアが韓国に苦しめられている。トルコより強いチームが、日本より弱かったチームに崖っぷちまで追い込まれている。それだけで十分信じられないことだというのに、奇跡が、本当の奇跡が、延長戦に待っていた。
安貞桓(アン・ジョンファン)。
決勝トーナメント1回戦で日本は敗れ、韓国は勝った。これだけのことならば、私もさしてショックは受けない。しかし、韓国がやったのが「これが韓国だ」という戦いだったとしたら、日本がやったのは「これがトゥルシエだ」というサッカーだった。そのことが、私を強烈に打ちのめした。
フース・ヒディンクが大会終了後に韓国を去ったとしても、これからの韓国人は、あのイタリア戦をイメージした戦い、チーム作りをしていけばいい。彼らのサッカーは、イタリアのみならず、世界の人たちに完全に認知された。これは、ベスト8に進出したという結果以上に、大きなことかもしれない。
だが、日本はどうすればいいのだろう。4年後のワールドカップで、苦境に立たされた日本人選手は、韓国人選手にとってのイタリア戦のような拠り所を、どこに見いだせばいいのだろう。次の監督は何を目指してチーム作りをすればいいのだろう。
涙は、出て来ない。私は、ただ怖い。