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<ナンバーW杯傑作選/'02年6月掲載> 日本は燃え尽きたのか。 ~決勝T・トルコ戦、空虚な敗北~
text by
金子達仁Tatsuhito Kaneko
photograph byMichi Ishijima/Naoya Sanuki/Kazuaki Nishiyama(JMPA)
posted2010/05/19 10:30
采配的中の快感を忘れられなかったトゥルシエ。
だが、後半開始のホイッスルを待つフィールドに、三都主の姿はなかった。
サッカーには「勝ったチームはいじるな」という金言がある。最高の形で終わったチュニジア戦を考えれば、トゥルシエ監督がスターティングメンバーを変える必要はあまりなかった。しかし、おそらく彼の脳裏には、怖いぐらいに的中したチュニジア戦の采配がこびりついていたのだろう。あのときも、彼は後半開始とともに2人の選手を入れ換えた。
試合の流れを読むのがうまいとはいえないトゥルシエ監督にとって、あの采配的中によってもたらされた快感は、想像を絶するほど大きなものだったのだろう。彼は自分の振るうタクトにまだ魔力が残っていると信じていた。そうとしか思えない、三都主の交代だった。
51分、ペナルティエリア内で鈴木が転倒するが、笛は鳴らなかった。
52分、ゴール前でのこぼれ球を中田英寿が右ボレーで叩きつけるが、ボールはGKの正面をつく。
61分、市川からのセンタリングを西澤がヘッドであわせるが、これまたGKの正面。
なぜ痛ましいほどの必死さが伝わってこなかったのか?
前半だけで2ページ半を費やした私の取材ノートに、後半記された日本のチャンスらしいチャンスはこの3回だけだった。前半はまだ残っていた勢いを失い、メンバー交代によって選手間の連係がバラバラになってしまった日本は、さしてトルコのゴールを脅かすこともなく、いたずらに時間だけを消費していってしまう。
スクリーンに映し出される選手たちの表情は、痛ましくなるぐらい必死だった。しかし、スクリーンに目をやらなければ、フィールドから選手たちの必死さを感じ取ることは難しかった。スペイン対アイルランドやドイツ対アイルランド、パラグアイ対スロベニアといった試合ではこちらの胸を押しつぶさんばかりの迫力で伝わってきた必死さが、この日のフィールドからはまるで伝わって来なかった。
試合が終わってしばらくたったいまだからその理由がよくわかる。