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<文武両道で初のセンバツへ> 宮崎西高校 「弱小野球部の“とんでもない快進撃”」 

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日比野恭三

日比野恭三Kyozo Hibino

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photograph byKentaro Kase

posted2012/03/17 08:02

<文武両道で初のセンバツへ> 宮崎西高校 「弱小野球部の“とんでもない快進撃”」<Number Web> photograph by Kentaro Kase

野球か、勉強か、どっちかに絞りたいけど、それは無理。

「朝は6時15分に起きて、7時ぐらいに家を出る。夜は宿題をやってから、余裕がある時だけ素振りをします。野球か、勉強か、どっちかに絞りたいけど、それは無理。『部活やるなら勉強もしろ』って親に言われてるし」

 時間がないだけではない。野球部の部員数は45名と多い割に、グラウンドが狭いのだ。ライト側が65mしかなく、照明設備も乏しい。日が落ちると外野は真っ暗になり、練習に使える面積はさらに狭くなってしまう。

 厳しい環境下、学業優秀な西高ナインは、練習にどんな工夫を凝らしているのだろうか。「自分たちでメニューを考えることもあるんですけど、工夫って言われても……筋トレとか走り込みとか、ほんと基礎的なんで」

 小柄でずんぐりした体型の原田は、コメントしようがない、と言わんばかりに苦笑する。 実際、練習を眺めてみても、特筆すべき様子はない。監督の兒玉も、特に指示を出すでもなく、じっと練習を見守っている。兒玉は'87年、筑波大学の四番打者として明治神宮大会で優勝した経験の持ち主だ。具体的な技術を教え込もうとしないのはなぜなのか。

「僕は打者出身ですから、4点取られても5点取って勝ちたいっちゅう気持ちはありますよ。だけど、私立の強豪校みたいに選手を集めてガンガン打つ野球はできない。それに、型にはめるっていうのは、時間がかかるもんなんです。うちにはそんな時間ありませんから、のびのびやらせた方がいい」

投手に転向した1年生、戸高のただ一つの問題とは?

 勉強、勉強、野球、勉強。練習に工夫を凝らせるほどの余裕もない。そんな毎日を送る野球部が、例年、県大会で早々と姿を消すのは、当然といえば当然だった。

 新チームに小さな変化があったのは、始動から約1カ月が経った8月のこと。内野手だった1年生、戸高達郎(タイトル写真、右から2人目)が投手に転向したのだ。

「打撃練習で投げるのを見てたら、コントロールもいいし、ちょっと面白いかな、と」

 兒玉に転向を促された戸高は、快諾した。中学時代はエース。本人曰く「第2希望みたいな感じで」投手の座を狙っていた。

 意志の強そうな眉をもつ戸高は、1年生らしからぬマウンドさばきを見せた。バント処理や牽制が巧く、盗塁を察知する嗅覚にも優れている。何よりコントロールが抜群にいい。

 問題はただ一つ。とにかく球が遅かった。

 苦笑交じりに兒玉が言う。

「真っ直ぐは120km台で、カーブなんて90kmぐらい。でも、緩い変化球をうまいこと使えてるから、真っ直ぐも速く見える。真ん中寄りに甘く入ることもほとんどない」

【次ページ】 “急造エース”と“堅守”の意識を携えて。

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