野球善哉BACK NUMBER
日本S、中日のカギは吉見の起用法。
ヤクルトの捨て身の戦いにみる教訓。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/11/09 12:40
今季、中日のエースとして目覚ましい活躍を見せた吉見一起。内海哲也と並ぶ18勝で最多勝のタイトルを獲得し、他にも最優秀防御率、最高勝率でもトップとなった
捨て身だった。
セ・リーグのCSで敗れたヤクルトの戦いはそう表現していい。
巨人とのCSファーストステージで、本来は先発投手であるはずの村中恭兵と増渕竜義を中継ぎ起用。そうかと思うと、1勝1敗の五分で迎えた最終戦では、第1戦に先発した館山昌平を中継ぎ待機させた。
いわゆる、投手陣のスクランブル登板でCS突破を狙ったのである。
中日とのファイナルステージに入っても、その起用は変わらなかった。第1戦では増渕が先発し、第2戦は先発の石川雅規の後を館山が受け継ぎ、クローザーを務めた。第3戦にはファーストステージ2試合で中継ぎを務めた村中が先発。一方、第5戦では中2日で館山が先発に回った。
「後がない気持ちで戦っている。先を見据えてという戦いはウチにはない」というのが小川淳司監督の采配ということになるのだろうが、この指揮官の思い切った作戦は、理にかなった戦術というよりも、使える駒を出し惜しみなく使いきるというだけのものに映った。
'08年の西武や'09年の巨人も、先発投手を中継ぎで使ったが……。
過去のポストシーズンにおいて、投手陣のスクランブル登板はよく使われた戦術だ。
シーズン中は先発ローテーションの一角として活躍する投手を、あえて中継ぎとして起用し、勝利をもぎ取っていく。疲労を押してまでも、チームの危機を救う投手の登場は、チームを日本一へと誘う。そうした戦いを見てきた。
なかでも、鮮明に記憶に残っているのは'08年に日本一に輝いた西武だ。7戦目までもつれた巨人との日本シリーズで、西武・渡辺久信監督は、先発要員の岸孝之をスクランブル登板させた。岸は第4戦に先発して完封勝利を挙げたあと、中2日で第6戦の2番手として登板。2勝を挙げたのだ。岸の好投で流れをつかんだ西武は、最終戦を制して日本一に輝いた。岸はMVPを獲得した。
'09年の巨人も、岸と事情は異なるがスクランブル登板で日本一に輝いている。第2戦で先発の内海哲也が炎上すると、東野峻を中継ぎ起用。第6戦はその真逆で、先発した東野が打球を受けて降板すると、内海がマウンドに上がった。内海は第2戦の借りを返す活躍で勝利投手となり、チームを日本一に導いた。