F1ピットストップBACK NUMBER

ベッテルの王座は確定的だが……。
バトンと可夢偉の鈴鹿での秘策とは? 

text by

尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

PROFILE

photograph byHiroshi Kaneko

posted2011/10/06 10:30

ベッテルの王座は確定的だが……。バトンと可夢偉の鈴鹿での秘策とは?<Number Web> photograph by Hiroshi Kaneko

シンガポールGPの表彰台でのベッテル(右)とバトン。ホンダエンジンとチームを通して日本と馴染みの深いバトンは「日本は僕にとって第二の故郷。鈴鹿では全力を尽くす」と約束。さらに、震災復興への応援メッセージを語った

 ベッテルのポール・トゥ・ウィンで幕が下りたシンガポールGP。常夏の国であるにもかかわらず、メディアセンターは秋の雰囲気に包まれていた。それはタイトル争いが雌雄を決したときに漂う独特の臭いを感じたからだ。

 シンガポールGPで今シーズン9勝目を挙げたベッテル。ドライバーズポイントを309点とし、ドライバーズ選手権2位のバトンとの差を124点とした。優勝者に与えられるポイントは25点。この時点で、バトン以外にタイトル獲得の可能性は消え、バトンですら残り5戦を全勝し、かつベッテルが残り5戦で無得点とならなければ逆転チャンピオンの可能性がなくなった。

 ベッテルは残り5戦でたった1点(10位)以上を加点すれば、2連覇となる。事実上、タイトル争いは決したのである。その事実を噛みしめながら、キーボードを打ち続けるメディアセンターに秋風が吹くのは、当然と言えば当然だった。しかし、そのメディアセンターの真下にあるピットビルディングで作業するチームスタッフたちの今シーズンの戦いは、まだ終わっていなかった。

深夜のピットレーンで出番を待っていた鈴鹿用の機材。

 チェッカーフラッグから約5時間後の深夜3時。

 マリーナベイ・ストリート・サーキットに突然、スコールが襲ってきた。シンガポールから鈴鹿へ運搬するための荷造りをピットレーンで行っていたメカニックたちは、大急ぎでピットレーンへ繰り出し、機材が収納されているコンテナの扉を閉めて回った。そのメカニックに混じって、ビショ濡れになりながら、扉を閉めるエンジニアがいた。マクラーレンのレースエンジニアを統括するフィル・プルウだ。

 レース後のエンジニアは、主にレースの走行データを整理する。2種類のタイヤのデグラデーション(タレ)を計算したり、レース中のラップタイムとタイヤの空気圧の相関性を取るなどして、レースに投入したタイヤ選択の是非を問い、ピットストップ戦略は正しかったかどうかを検証するのである。その作業は主に空調が効いたエンジニアリングルーム内で行われ、機材の運搬作業が行われるガレージにエンジニアが来ることは珍しい。

 ところがプルウは、ガレージを訪れただけでなくガレージから出て、激しい雨が降り続くピットレーンへ飛び出していった。なぜなら、そこには鈴鹿で勝負するための機材が収められていたからである。

【次ページ】 トラブル続きの予選では新パーツのデータを集積できず。

1 2 3 NEXT
#セバスチャン・ベッテル
#ジェンソン・バトン
#小林可夢偉
#レッドブル
#マクラーレン
#BMWザウバー

F1の前後の記事

ページトップ