オフサイド・トリップBACK NUMBER
激化するマンチェスターの覇権抗争。
「C」がプレミアの勢力を塗り替える。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2011/08/06 08:00
マンチェスター・シティのオーナーであるシェイク・マンスール・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤーン。サッカーだけでなく、ドバイには競馬場を作り、F1のフェラーリのチームにも莫大な投資をしている、アラブ首長国連邦(UAE)の王族にして将来有望な閣僚のひとりでもある
マンUもCL出場枠を得た「シッテイ」を無視できない。
だが結果的に見るならば、マンCはライバルと目されたトットナムを退けてベスト4に割って入ったばかりか、アーセナルをも抜いてCL本戦の出場枠さえ手にしている。またあまり注目されてはいないが、昨シーズンはチェルシーと同じ勝ち点を記録した。2位のチェルシーと3位のマンCを分けたのは、得失点の差にすぎなかった。
もちろん、寄せ集め集団という印象はそれでも残り続けるし、マンチーニの指導力に関する不安も払拭されたわけではない。しかし昨シーズン、まがりなりにも結果を出した自信と経験は大きい。何よりも個々の選手の力量を単純に合計した「排気量」は、マンチェスターの「雄」ユナイテッドにとっても軽視できなくなってきているのではないだろうか。
事実、昨シーズン行われたFAカップ準決勝でマンUが苦杯をなめたのは、国内リーグを制したのは2度のみで、しかも2000-2001シーズンには2部リーグへの降格さえ経験するなど、「シッテイ(糞チーム)」と嘲けられてきたこのチームだったのである。
マンチェスターの「雄」ユナイテッドも大幅改造に着手。
よりによって今夏のマンUは、近年例を見ないような大規模なチーム改造に着手している。スコールズ、ガリー・ネビル、ファンデルサールといったベテランは退団。ブラウンやオシェイといった歴戦の強者も他のクラブへと移籍した。
むろんファーガソン監督はアーセナルの指揮官であるベンゲル同様、チームを新陳代謝させる手腕にかけては折り紙つきだ。その実、ファンデルサールに代わってはデ・ヘアを獲得し、フィル・ジョーンズやアシュリー・ヤングといった母国産のMFやDFもきわめて早い時点で手に入れた。
最大の懸案とも言われるスコールズの後釜には、経験豊かなスナイデルを獲得するのではないかという噂も流れている。加えてユナイテッドには「クラブの伝統と格式、プレミア屈指の経験値」という武器もあるだろう。だが2003-2004シーズンがそうであったように、チームが過渡期にさしかかっていることがもたらすデメリットは看過できない。
ロンドンvs.マンチェスターの地域抗争も注目の的に。
さてマンチェスター地域の盟主争いもさりながら、シティが大化けするか否かは二つの点でも興味深い。一つ目はロンドンvs.マンチェスターという地域の覇権抗争である。
英国の代表的なブックメーカーであるウィリアム・ヒルがつけている優勝チームのオッズはマンU:2.5倍、チェルシー:3.5倍、マンC:4.5倍、アーセナル:11倍。
ましてや第二のモウリーニョと評されるビラスボアスの実力は未知数、アーセナルはマンU以上に選手が入れ替わる可能性もあることを考えると、「いよいよ俺たちの時代が来たか」と「マンキュニアン(マンチェスターっ子)」が色めき立つのも無理はない。ロンドンのサッカーファンは「“地方”が勝手にライバル意識を燃やしているだけさ」とうそぶくだろうが、スーパーカップ同様、プレミアの優勝争いをユナイテッドとシティが繰り広げるような展開は、決して面白くないはずだ。