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セビージャに移籍の指宿洋史が示した
“日本人大型FW”の新たな可能性。
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byMutsu Kawamori
posted2011/07/27 10:30
日本でサッカー指導者として活動してるジョアン・サルバンスに見出されて17歳にしてスペインへ渡った指宿。サルバンスは、バルセロナの元ジュニアユースの監督であった
セビージャへの移籍が決まった日本人FW指宿洋史。まずはセビージャB(セビージャ・アトレティコ=3部)からスタートするとは言え、現地報道では「身長2mに近いストライカー」、「セビージャが近い未来のために獲得したFW」と伝えられ、注目されている。
リーガの強豪との契約を勝ち取った指宿だが、柏レイソルU-18時代にはトップチームに昇格できず、17歳でセグンダ(2部)のジローナのテストを受けて合格し、18歳でプロデビューを果たした。翌'09-'10シーズンにはジローナからテルセーラ(4部)のサラゴサBにレンタル移籍し12ゴールを挙げると、昨シーズンはセグンダB(3部)のCEサバデルへと移籍。10ゴールを挙げる活躍でセグンダ昇格の原動力となった。
指宿が戦ってきたセグンダ、セグンダB、テルセーラでは激しい肉弾戦が繰り広げられる。かつてレアル・マドリーBのエースとしてセグンダBでプレーしていたスペイン人MFフラド(現シャルケ)は、「プリメーラ(1部)よりも厳しく、難しいリーグ」と語ったことがある。
フィジカルに強い指宿はラフな下部リーグで技術を見せた。
それは何故か。プリメーラのサッカーは高い技術、フィジカルを併せ持った選手によって“確実に”ボールが動く。しかし、セグンダ以下のリーグではプリメーラよりもパスのズレ、トラップミスが多い。そしてそれを見逃さないコンパクトな守備網が敷かれているために、自ずと激しいボディコンタクトが頻発する。
そのため綺麗にボールが動く状況はほとんど見られなくなり、体ができていない選手やそれをカバーする技術を持たない選手は長所を全く出せなくなってしまう。筆者がRSDアルカラ(3部)というクラブに練習だけ参加していたシーズンに、アルカラはフラドやアルベロア(現レアル・マドリー)、デラレッド(引退)を始め、現在プリメーラでプレーする選手を揃えていたレアルBとリーグ戦で対戦した。その試合も例のごとく、激しい削り合い、潰し合いとなり、まだ体ができていなかったフラドは決定的なプレーを見せることなく途中交代していたほどだ。
そんなリーグだからこそ、しっかりとボールをキープし、ボールを繋ぐことができる選手がいるチームは間違いなく上位に浮上し、昇格やプレーオフ進出を争うことができる。
指宿はまさにチームを引き上げる力を持った選手だった。ジローナから指宿がレンタルされたサラゴサBはテルセーラからセグンダB昇格をかけたプレーオフに進出し、サバデルはセグンダBからセグンダへの昇格を果たしている。