スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
男の風味とブルーカラーのしぶとさ。
~ワールドシリーズは気力の勝負~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2009/10/28 10:30
勝てば監督として初制覇となるジラルディ(左)と、連覇を狙う赤鬼・マニエル監督
フィリーズにしてみれば、「雨、雨、降れ降れ」の気分だったにちがいない。さらに欲をいえば「エンジェルス、もう一丁」という掛け声を付け足したかったかもしれない。
しかし、雨はやんだ。エンジェルスの食い下がりも限界だった。ヤンキースは6年ぶりにワールドシリーズへ進出した。リーグ優勝は通算40回目のことだ。
ヤンキース本命だがフィリーズのしぶとさも捨てがたい。
2009年のワールドシリーズは、10月28日の水曜日から始まる。ひと足早くナ・リーグを制したフィリーズが雨を願ったのは、もしALCS(ア・リーグ優勝決定シリーズ)の日程が延びれば、ヤンキースは主戦投手サバシア(ポストシーズンの防御率=1.19)の登板間隔を空けざるを得なくなるからだ。つまり、仮にヤンキースがシリーズに進出しても、サバシアの登板は第3戦以降という計算が立つ。が、フィリーズの願いは砕けた。ヤンキースは、予定どおりシリーズ第1戦にサバシアを投げさせることになった。一方、フィリーズの先発は、ポストシーズンの防御率が0.74のクリフ・リー。
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目先の些事にこだわるようだが、今季のシリーズは、この辺がツバ競り合いのポイントになる。
ヤンキースは予想どおり強い。フィリーズも、前年王者のたくましさを覗かせてナ・リーグを制した。私は依然としてヤンキース本命説を唱えるが、フィリーズのしぶとさは、1990年代前半にシリーズ2連覇をなしとげたブルージェイズを彷彿させるところがある。
打線は似ているが投手力でヤンキースが上を行くか。
思えば過去30年、シリーズ連覇を達成したのは、ヤンキース(1998~2000)とブルージェイズ(1992~93)の2球団だけだ。かつてブルージェイズの犠牲者となったフィリーズがその偉業に挑戦中であることはほとんど忘れられているが、実はヤンキースとしても油断できないのではないか。
どこからでも点が取れる、という意味では両者の打線は似ている。レギュラーシーズンの本塁打数は、ヤンキースの244本(大リーグ全体で1位)に対してフィリーズの224本(全体で2位)。ポストシーズンの打撃成績を見ると、Aロッド以外は好機に不発の打者が多いヤンキースに比べて、フィリーズはヴィクトリーノ、ハワード、ルイーズ、アトリーの4人が打率3割以上をマークしている。
ただ、投手力ではやはりヤンキースが上を行く。先発3本柱のポストシーズン防御率は両者とも2.50強と差はないが、ペティットとバーネットを2番手3番手にそろえるヤンキース投手陣に比べると、マルティネスとハメルズが2番手以降に続くフィリーズには、年齢面や精神面での不安がつきまとう。
気力と気力がぶつかるつばぜり合いを制するのは?
となると、先ほども触れたとおり、今季のワールドシリーズはやはり気力の勝負になるのではないか。ジラルディ監督の采配下、年間を通して「男の風味」を漂わせてきたヤンキースと、ブルーカラー特有の柄の悪さを隠さず、勝負どころでしぶとさを発揮しつづけてきたフィリーズ。思えばこれは、ワイルドバンチとワイルドバンチの対決だ。
ヤンキース有利と見る私の考えに変わりはないが、すんなりと決着がつくとも思えない。これで雨天順延などが重なれば、最後の試合は11月5日を過ぎても行われる計算になる。「史上最長のシーズン」を制するのは、どちらのワイルドバンチだろうか。