セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
名将リッピの時代錯誤。
~イタリア代表は大丈夫か~
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byTakuya Sugiyama
posted2009/07/12 08:00
南アフリカでのコンフェデレーションズ・カップで、イタリアはエジプトとブラジルに連敗し、予選リーグ敗退という醜態を晒した。リッピ監督は「私が就任して以来、最悪の時期だ」と苦々しく吐き捨てたが、この敗戦は名将自身が陥っている“過信”と“保守性”という落とし穴によってもたらされたように思えてならない。
ちょうど1年前、ユーロ2008で敗退したアッズーリを引き継ぎ、第2次政権を発足させたリッピは、ドイツ大会優勝メンバーに絶対の信頼を与え、対戦相手に恵まれた南アフリカW杯欧州予選グループ8を順調に戦ってきた(グループ8は他に、アイルランド、ブルガリア、キプロス、モンテネグロ、グルジア)。勝っているチームはいじる必要がない。
ところがコンフェデ杯で待っていたのは、2006年以降、積極的な戦力入れ替えと徹底したコンディション重視を図ってきた各大陸代表だった。ベルリンの栄光から3年という時間が過ぎているのに、連敗したアッズーリのスタメンにはドイツ大会の代表が実に8人も並んでいた。名将は明らかに戦力相対観を見誤った。
鎖国を匂わすリッピ監督の時代錯誤ぶりに驚愕。
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イタリアも新戦力がいなかったわけではない。光るプレーを見せたのはFWロッシ(ビジャレアル)やDFドッセーナ(リバプール)。彼らはリーガやプレミアで、今季ブレイクしたプレースタイルそのままにシュートやサイドアタックなど己の持ち味を発揮した。それでも彼らの招集はリッピにとってはあくまで“例外”なのだ、と思わされたのは、大会前にカカのレアル・マドリー入りが公になったときだった。セリエAの至宝の流出に、リッピは、
「外国人選手はどんどん出ていってくれた方が私は嬉しいね」
とうそぶいたのだ。トップレベルでの人材の交流と情報の共有が当たり前のこのご時勢にである。時代錯誤ともいえるリッピの発言に眩暈すら覚えた。
W杯本番までにアッズーリの再建は可能か?
今回の惨敗によって、すべてが白紙状態となったイタリア代表のW杯連覇は現段階でかなり難しいと言わざるをえない。さすがに危機感を募らせたリッピは大会後、4-4-2への移行を含む戦術変更、メンバーの大幅入れ替えを示唆した。だが、何よりの問題はチーム改造とそれを熟成させるために残された時間が少ないことだ。本大会出場を逃すとは考えにくいが、本番まで1年を切った段階で、残る真剣勝負の場は力の劣る弱小国との予選に限られている。
「1年後にきつい平手打ちをくらうよりはマシ」
名将の仕切り直しは、8月12日の親善試合スイス戦だ。
(今回から連載を執筆する弓削氏から)……われわれは外国のことをどれだけ知っているのだろう。イタリアの政治も生活も、はたまた恋愛に関する姿勢も根っこはすべてカルチョに繋がっている。そんな風に考えています。この国の陽気なステレオタイプの裏にある“リアル”を紹介しながら、日本サッカーが世界で勝つための、そのヒントを探っていきたいと考えています。よろしく、です。