EURO2004 速報レポートBACK NUMBER
ドイツが本番に強い理由。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byGetty Images/AFLO
posted2004/06/16 00:00
ドイツは本番でなぜ強いのか? その答えのヒントがおぼろげながら見えてくる試合であった。
ポルトのドラゴン・スタジアムの7割はオレンジに染まっていた。カーンが練習に出てきたときからブーイングが始まり、ドイツの国家のときは演奏が聞こえないほどの大音量になった。ドイツのファンはオランダ人の中に埋もれ、ドイツにとっては完全にアウェイの雰囲気だったと言っていい。
だが、ドイツの選手たちは実にクールだった。まるで命令されているかのように、えげつないファールを繰り返す。これほど生真面目に“違反行為”を犯し続けられるのはドイツくらいではないか。
ドイツの小さなファウルがボディブローのように精神面に応え、ついにオランダは我慢しきれなくなる。一番冷静であるべきキャプテンのコクが、ラームを小突くように倒して自陣右サイドでFKを与えてしまった。前半30分、そのフリンクスのクロス性のFKが、オランダのDFをすり抜けるようにしてネットに突き刺さった。ドイツが先制して1対0。精神的に相手を自滅に追い込めることにこそ、本番のドイツの強さがあった。
試合の流れは、後半29分にオランダが長身FWのファンホーイドンクを投入したことで変わり始める。オランダはロングボールを放り込むサッカーに切り換え、かろうじて同点ゴールを決めることに成功する。後半36分、途中出場のエルンストからファンデルメイデがボールを奪い、そのクロスからファンニステルローイがゴールを決めたのだ。試合は1対1の同点で終了した。
しかし、追いつかれたとはいえ、この日ドイツが見せた“相手を精神的に追い詰める”作法には、普遍的な強さがあった。層の厚さや中盤の展開力に問題は抱えているものの、確実に相手を仕留める武器をドイツは持っているのである。
一方のオランダはファンホーイドンクに、ロングボールを集めることでしか活路を見出せなかった。クライフはオランダ国内の生中継で、「オランダには、これしかないのか。スナイデル以外は全員ダメだった」とあきれ返っていたという。EURO直前に敗れたベルギー戦やアイルランド戦の親善試合と同じように、攻撃の形は全く作れず、今後の戦いは苦しくなりそうだ。
ドイツは自分たちのやり方で1ゴールし、オランダは慣れない緊急策でなんとか1ゴールした。同じ勝ち点1だったが、両国のチームとしての完成度の差が明らかになる試合となった。