MLB Column from USABACK NUMBER
トゥエンティ・ナインティ!
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGettyimages/AFLO
posted2005/05/18 00:00
レッドソックス対ヤンキース、105年目のライバル関係が、今季、大きく様変わりしている。
昨年までのヤンキース・ファンだったら、ここぞという場面で「ナインティーン・エイティーン!」と連呼(チャンティング)して、1918年を最後に1世紀近くワールドシリーズに優勝していなかったレッドソックスにプレッシャーをかけたものだったが、昨年のレッドソックスの86年ぶりの優勝で、もうこの手は使えなくなってしまった。
レッドソックス相手の開幕戦、「2004+86=2090」と書かれたプラカードがヤンキー・スタジアムに登場したが、「次に優勝するまでにはまた86 年かかるから、次の優勝は2090年だ」という意味である。しかし、今のところ、「トゥエンティ・ナインティ!」は、ヤンキース・ファンの認知を受けたチャンティングとはなっていない。
ADVERTISEMENT
一方、昨季のワールドシリーズ優勝で、レッドソックス・ファンの心理も大きく変わった。昨年までだったら、相手がヤンキースであろうとなかろうと、試合中「ヤンキース・サック!(ヤンキースは最悪!)」を何度も連呼してヤンキースに対する憎悪をたぎらせたものだが、今季は、まったくといっていいほど、「ヤンキース・サック!」を、やらなくなってしまった。
「自分たちは86年間優勝できずにいるのに、ヤンキースは26回も優勝しやがって」と、悔しさと欲求不満とを発散するために、「ヤンキース・サック!」と叫ばずにいられなかったのだということが、優勝した今になってはっきりと了解できるのだが、今年は、フェンウェイ・パークの観客席に座って優勝旗が翻るのを見ているとそれだけで体中に充足感が満ち渡るので、「ヤンキース・サック!」と憎悪をたぎらせする必要をまったく感じなくなってしまったのである。
皮肉なことに、ヤンキースは、開幕31試合を12勝19敗と大きく負け越す最悪のスタートを切り、文字通り「ヤンキース・サック!」の状態に陥っていたのだが、ボストンでは誰も「ヤンキース・サック!」と叫ぶ者がいなくなってしまったのである。
しかし、そのヤンキースが8連勝(5月15日現在)と調子を上げてきた。いずれ、レッドソックスと首位争いにからみだすことは間違いないが、そうなると、またぞろ、ボストンに「ヤンキース・サック!」の連呼がよみがえるのではないだろうか?「サック」している(=弱い)ときには「サック!」と叫ばず、「サック」していない(=強い)ときには「サック!」と叫ぶのだから、ファンの心理とはひねくれたものだ。