アテネ五輪コラムBACK NUMBER
【特別連載 山崎浩子のアテネ日記 第5回】
テニス女子~ナブラチロワを支えるもの。
text by
山崎浩子Hiroko Yamasaki
photograph byHiroko Yamasaki
posted2004/08/21 12:55
「ナブラチロワってすごいんだよ。馬みたいな筋肉をしてるの」
ずっと以前、マルチナ・ナブラチロワが全盛の頃、あるプロテニスプレーヤーにそう聞いたことがあった。
実際に間近で見ても、艶と張りのある筋肉をしていて、とても女性とは思えない。それはそれは美しい筋肉であった。
そして20年の歳月が経ち、彼女の筋肉はやはり美しかった。もう47歳だというのに、あの頃とまったく変わらない、見事な筋肉である。
50個以上のグランドスラムタイトル(シングルス、ダブルス、ミックスダブルスを合わせて)を持ち、1983年には年間勝率98.9%の記録も樹立したナブラチロワは94年に引退。しかし、2000年に突然復帰して世間を驚かせたばかりか、このアテネオリンピックのアメリカ代表(ダブルス)にも選出された。47歳での初のオリンピック出場。まったくもってアンビリーバボーである。
準々決勝では、日本の杉山愛、浅越しのぶ組と対戦したが、パートナーのリサ・レイモンドを含めて親子ほども年齢が違う選手たちに囲まれても、まったく遜色がなかった。ボールに対する反応、パワー、テクニック……杉山組にフルセットの末に破れはしても、誰がどう見ても47歳のプレーではなかった。
杉山は、「彼女は食べ物に関してもトレーニングに関しても、その自己管理能力がすごいと思います。モチべーションも高いし、テニスへの情熱、エネルギーの大きさは素晴らしい」と言い、浅越も「私にも彼女のようなボレーのタッチがほしい。あのボレーの柔らかさは見習いたい」と彼女を賞賛した。
来年の去就について聞かれたナブラチロワは、「新聞等でいろいろ書かれているけど、来年のことはまたゆっくり考えるわ」と答えるにとどまった。
ふたたび記者が「いつまでやるのか」と質問する。
「わからない。私は勝つためにやってるわけじゃない。楽しむためにやってるの。練習を含めてテニスのすべてが好きだから」
しかしその表情からは、負けた悔しさがにじみ出す。この悔しさがある限り、彼女はまだまだやり続けるような気がしてならなかった。