スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
クリフ・リーとプラスワン。
~MLB移籍市場に残る大物とは?~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byMLB Photos via Getty Images
posted2009/12/26 08:00
今年のワールドシリーズでも2勝を挙げたリー。彼の加入に、イチローも喜んだ
ストーヴ・リーグが燃えさかっている。日本では松井秀喜のエンジェルスへの移籍がもっぱらの話題だが、派手な移籍劇はほかにも少なくない。なかでも私が注目するのは、ふたりのサイ・ヤング賞投手を一気に巻き込んだ三角トレードだ。
と書けば、くわしい説明は不要だろう。ブルージェイズにいたロイ・ハラデイがFAでフィリーズへ移り、フィリーズのエースだったクリフ・リーがマリナーズに移籍し、フィリーズは見返りとして3人の若手有望選手を獲得したのだ。
なぜフィリーズはサイ・ヤング賞デュオ誕生を諦めたのか?
サイ・ヤング賞投手ふたりを同時に巻き込んだ移籍劇はアメリカ野球史上初めての出来事だ。しかも、ふたりとも脂が乗り切っている。ハラデイが32歳で、リーが31歳。サイ・ヤング賞を受けたのはハラデイが2003年で、リーが2008年。
ハラデイは現在の大リーグで最も安定感のある投手のひとりといってよい。'03年以降の7年間で111勝52敗の数字も立派だが、過去2年を振り返っても、'08年が33試合に先発して防御率=2.78、'09年が32試合に先発して防御率=2.79といった具合に、まったくブレを感じさせない。
一方のリーも、価値は劣らない。本格デビューした'04年から'09年までの通算成績が73勝35敗。'08年には22勝3敗という圧倒的な成績でサイ・ヤング賞を獲得しているし、'09年のポストシーズンでは4勝0敗、防御率=1.56と敢闘賞に値する活躍を見せた。
これで両者がともにフィリーズのユニフォームを着れば、史上稀に見るパワー・デュオが誕生するところだった。が、フィリーズは「若手の育成」を理由にリーを放出した。もちろん、現実的な理由は金だ。サラリーキャップ制の導入さえ噂される昨今、いまが盛りの二大投手を保持するには年間25億円程度の出費が見込まれる。しかもリーは、2010年にFAの資格を得る。
リー放出の報に素早く動いたマリナーズは“機を見るに敏”。
というわけで、そこに介入したマリナーズの動きは、機を見るに敏と呼ぶにふさわしいものだった。FA資格を取ったベルトレやベダードの退団を見越して財布の紐をゆるめたと見ることはできるが、なによりも魅力的なのは、マリナーズにパワー・デュオが誕生したことだ。「剛球王」フェリックス・ヘルナンデスと「頭脳派左腕」クリフ・リー。ピッチャーズ・パーク(投手に有利な球場)のセーフコ・フィールドを本拠とするマリナーズにとって、これほど心強い二本柱はない。しかも来季は、守備陣が堅い。センターにグティエレス、ライトにイチロー、三塁に新加入のフィギンス、遊撃に去年から加入したジャック・ウィルソン。これはリーグでも一二を争うディフェンスといってよいだろう。