MLB Column from WestBACK NUMBER

レイズ快進撃を支えるひとつの数式 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byYasushi Kikuchi

posted2008/08/22 00:00

レイズ快進撃を支えるひとつの数式<Number Web> photograph by Yasushi Kikuchi

 いよいよシーズンも終盤にさしかかったが、依然としてレイズの快進撃が続いている。シーズン前半戦終了間際に7連敗し、遂に勢いに陰りが出たかと思いきや、後半戦に入って再び勝ち星を重ね続け、8月19日にはア・リーグ西地区首位のエンジェルスに連勝し、カブスと並びメジャー最高勝率に躍り出てしまった。「破竹の勢い」とは、まさにこういうことをいうのだろう。

 幸運にも8月から直にレイズを取材しているのだが、現場で選手たちの行動を目の当たりにし、今シーズンのレイズはある一つの合い言葉というか、スローガンの元にまとまっていることを知った。

 “9=8”

 もちろん数学上は成立しない数式であり、ジョー・マドン監督が考案した造語なのだという。その意味について、レイズ番記者の1人が以下のように解説してくれた。

 「グラウンド上にいる9人が1つになって9イニングを戦い続ければ、プレーオフに進出できる8チームの1つになれるということを意味しているんだ」

 マドン監督は7月にはいると、この数式を背中にプリントしたTシャツをつくり、現場にいる全員に配り選手たちの意識づけを徹底している。その甲斐あってか、レイズの今シーズンの野球スタイルは間違いなく9人が一丸となって戦う“全員野球”といっていい。それを物語るように、8月に入ってからエバン・ロンゴリア選手、ジャーソン・バートレット選手、カール・クロフォード選手、トロイ・パーシバル投手──と、次々に主力選手が故障で戦線離脱していきながらも(バートレット選手はすでに復帰)、チームはまるで影響がないかのように勝ち続けているのだ。

 「もちろん故障した選手たちは我々にとって大きな戦力であり、彼らが抜けた損失は大きい。だがその一方で、彼らの代わりに登録された選手たちが実にいい働きをしてくれている。もちろん(離脱前と)同程度の戦力だとは思っていないが、今でも十分に戦えるレベルにあると思う。我々にとって最も重要なのは、どんな戦力を揃えるかではなく、現在戦える選手たち全員が同じ目的意識を持ち、グラウンド上で“Intensity(熱意)”と“Effort(努力)”を示しているかだ」

 昨年までチーム創設10年間で一度たりとも勝ち越したことがないメジャーの“お荷物球団”を変貌させるのは、並大抵のことではない。だからこそマドン監督は前述通り、“9=8”によって選手たちの意識改革を徹底した上で、ちょっとしたことで油断しがちな若手選手たちの箍(たが)が緩まないように細心の注意を払い続けているのだ。

 自分が取材している間に、それを象徴するような2つの出来事があった。1つは、2度にわたるBJ・アップトン選手の出場停止処分だ。最近になってマドン監督は、選手たちに怠慢プレーをした選手を罰すると通達していたらしいのだが、一塁までの走塁で全力疾走をしなかったアップトン選手を即座に交代させ、戦力不足の状態にありながら翌日の試合にはベンチに座らせた。2度目の怠慢走塁でアップトン選手を途中交代させたマドン監督は、その試合後報道陣に熱弁を振るった。

 「一塁まで5.33秒かかっていた。リーグの平均は4.3秒だ。決して容認できるものではない。我々が現在の状態にあるのは、選手たちの絶え間ない努力に他ならない。現在我々はまさに新たなチームの伝統を築こうとしている。そのためにも引き続き努力を怠ってはならないのだ。そしてBJには残りシーズンだけでなく将来に渡ってチームの牽引者であることを認識してほしい」

 もちろん懲罰が本来の目的ではない。マドン監督は出場停止処分を科すと同時にいずれもアップトン選手と話し合いの場を持ち、お互いの意志の確認を行っている。

 これとは正反対の出来事が、岩村明憲選手だった。8月6日のインディアンズ戦で終盤に全力走塁で2本の内野安打を放ち、9回裏に6点を奪う逆転勝利に貢献。まさにマドン監督の“9=8”野球を体現してみせたのだ。もちろんマドン監督は、“陰のリーダー”として岩村選手に絶大な信頼感を寄せている。

 「自分たちが成功しようと思ったらとにかく一所懸命やる以外にないし、それしか自分たちでコントロールできない。アキは今回の走塁に限らず、常にグラウンド上で全力を尽くしている。今でも他の選手のいい模範になっているが、彼が普通に英語を話せていたら間違いなく我々のチームリーダーになっているはずだ」

 残りシーズン1ヵ月余りとなったが、今後のレイズの対戦相手はオリオールズとの6試合以外レッドソックス、ヤンキースや勝率5割以上のチームばかり。まだまだ試練が続く毎日に変わりはないが、マドン監督の統率の下、勝利を重ねるごとにチームの底力を増しているのは間違いないところだろう。

 レイズの資料によると、現代野球と呼ばれる1900年以降、メジャー最低勝率チームがその翌年に最高勝率を記録した例はないという。果たして我々は、メジャー史上類い希な“歴史的快挙”の目撃者になれるのだろうか。

ジョー・マドン
岩村明憲
タンパベイ・レイズ

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