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平山相太、エースの貫禄。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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photograph byPICS UNITED/AFLO

posted2006/01/10 00:00

平山相太、エースの貫禄。<Number Web> photograph by PICS UNITED/AFLO

 ハーフタイムにスタジアムのバーにいくと、ヘラクレスのファンにもみくちゃにされて、ひたすらビールを飲まされた。

 「ソウタの家族か?ヤツは完全にヘラクレスのエースだ!さあさあビールを飲め飲め」

 もちろん筆者は家族でもなんでもないが、彼らはそう思い込んで、外は吹雪いているというのに冷たいビールを強引に手渡してきた。やっぱりオランダ人の体感温度計は壊れている。

 12月30日、ヘラクレス対フィテッセの前半、平山相太はとんでもない活躍を見せた。まず24分に右サイドからのクロスに走りこんでヘディングでゴールを決めた。33分にはGKの股下を抜くシュート性のクロスが2点目のアシストになり、そして39分には右サイドをドリブル突破して、コーナーフラッグ付近から強烈なクロスをあげて3点目をアシストしたのである。

 1得点2アシスト。それも2試合連続のゴール。フィテッセはオランダリーグで10位のチームで、決して弱いチームではない。プロデビューからわずか5ヵ月の新人とは思えない暴れぶりだった。

 オランダリーグのダイジェスト番組では、解説者のグーリットが「すごいヘディングだった」と絶賛した。アナウンサーも「フェイノールトは平山を獲得しておけば良かったですねえ」と冗談交じりに言っていた。平山特集は、得点&アシストシーンをスローで振り返り約5分も続いた。オランダ人にとって、それほど衝撃だったのである。

 ちょっと前になるが、RBC戦(11月20日)の平山のトラップからの振り向きざまのボレーシュートは、欧州を網羅するスポーツTVチャンネル“ユーロスポーツ”の「今週のベストゴール」にノミネートされたことがあった。どうやら平山のゴールは、人の心を打つ何か特別なモノがあるらしい。

 それにしても、この平山の貫禄はどうしたものだろう。

 フェイエノールトの入団テストでは、プロのスピードに全くついていけなかった。ヘラクレスに入団したときも、ひとりだけモタモタしており、まだレギュラーとしては使えないという印象を与えた。

 しかし、今はもう違う。フィテッセ戦の試合後、ヘラクレスのボス監督が「ソウタはすでにオランダリーグのレベルに順応した」と語ったように、ピッチの上で平山は常に堂々としていた。驚くべきことに、ゴール前に来ても、のんびりした性格が幸いしてか、焦る様子がない。

 それに平山は、すでに190cmの長身が売りだけの選手ではない。3点目のアシストのとき見せた右サイドのドリブル突破は、ちょっと気の利いたウィンガーのようであった。オランダリーグのレベルではヘディングで負けることはほとんどないし、リーチの長さを生かして前も向ける。久しぶりに、“恐さのある”日本人FWを目にした。

 筆者はかねてから平山の代表招集を強く願っていたが、「代表のスーパーサブになってくれれば」というくらいの期待度であった。だが、このフィテッセ戦を境に、価値観はがらりと変わった。

 現在の平山のレベルは、日本代表でレギュラーをはれるだけの力がある。

 ジーコは2002年冬に欧州視察をして以来、欧州でプレーする日本人選手をちっとも観に来てくれなくなった。ベルギーの鈴木隆行の視察のときに、つきまとう日本人記者と衝突したことで嫌になってしまったのかもしれないが……。でもそんな瑣末なことに、いつまでもこだわってもしょうがない。ブラジルから日本へ行くとき、欧州で飛行機を乗り換えるときにちょっとオランダの田舎町に寄ってくれればいいのだ。

 ジーコにはぜひ平山の試合を観に来て欲しい。そうすればきっと、日本代表はもっと強くなる。

平山相太

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