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A・ロッドの造反でメジャーは変わるか 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2007/11/20 00:00

A・ロッドの造反でメジャーは変わるか<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 この仕事をしていると、通常のニュース番組以上にESPNのニュース情報番組『スポーツセンター』を毎日チェックするのが慣習化しているのだが、11月14日のトップニュースは個人的に──来るべき時がきたか──という印象を抱くものだった。

 ヤンキースから契約解除を求め、フリーエージェントになっていたアレックス・ロドリゲス選手が、ヤンキースと再契約を目指し交渉を始めたという。同日付で自身の公式サイトにロドリゲス選手は以下のような声明を発表している。

 「この数週間、妻シンシアや家族と過ごした結果、自分の将来はヤンキースに残るように行動することが必要だということが明らかになった。

 他の球団と本格的な交渉に入る前に、私の考えをヤンキースの人たちと直接分かち合える機会が欲しかった。確かに我々には他の選択肢があるが、自分とシンシアはヤンキースとともに基金を設立しており、自分たちにとってヤンキースこそが満足と幸福をもたらしてくれる。

 結果として、私は共通の友人を通じてヤンキースに連絡をとり、自分の気持ちを伝えた。同時に自分は、現在の状況を理解しているし、ヤンキースの懸念に答えていかねばならないと理解している。

 自分とシンシアは現在、スタインブレナー一族と直接話し合いを続けている。そして健全な話し合いは、お互いの正直な気持ちと希望を共有できている。我々は今後数日間、ヤンキースと対話を続けていきたいと考えている」

 敢えて声明の全文を紹介したのは、今回のロドリゲス選手の一連の行動が、彼の代理人であるスコット・ボラス氏を除外し、彼個人の意志で行われていることを理解して欲しかったからだ。ボラス氏といえば、メジャー球界では有名な“スーパー・エージェント”だ。多くの大物選手を抱え、強引ともいえる要求を突き付ける交渉術は、メジャー各球団から恐れられてきた。だが選手たちに破格な契約をもたらす一方で、その傲慢なやり方は、時として“やり過ぎ”と感じてしまうこともあった。以前から自分の中では、ボラス氏と契約する選手のすべてが、彼を心から信頼しているのか疑問を抱いていた。

 例えば、今年春に松坂大輔投手の独占交渉権を得たレッドソックスとの交渉のこと。交渉期間最終日直前に、松坂投手が「契約金額はいいからレッドソックスと契約したい」との意志を示すまで、ボラス氏は高額要求を変えようとせず、交渉決裂の姿勢を崩そうとしなかった。あの行動は明らかに松坂投手の意志を代弁しているとは思えなかった。

 さらにロドリゲス選手がヤンキースとの契約解除に至ったのも、もちろん窓口はボラス氏だった。ヤンキースの提示金額に「交渉のテーブルにつくにも値しない」とはねつけ、一度もヤンキースと交渉しようとしなかった。今回のロドリゲス選手の声明は、そんなボラス氏のやり方に「No」という意思表示をしたと考えるべきだろう。(この原稿を仕上げている時に、ESPNがロドリゲス選手とヤンキースの契約合意を報じた。契約金額は10年間で2億7500万ドル。ボラス氏が見向きもしなかった提示額だった)

 これまでロドリゲス選手は、常に“金の亡者”的な負のイメージがつきまとっていたが、それを作り上げた主要因は、交渉を担当してきたボラス氏だったといっていい。それだけに今回のロドリゲスの行動は、人々から好印象で受け入れられたようだ。ESPNのアンケート調査でも過半数が「ヤンキースはロドリゲス選手と契約すべき」と答えている。

 かつてNBA界にも、ボラス氏に匹敵する辣腕エージェントが存在した。マイケル・ジョーダン選手を中心に各チームの主力選手を抱えるデビッド・フォーク氏は、チーム間のトレードにも影響力を持つほどになり、一時は「NBAでスターン・コミッショナーに次ぐ力を持つ男」と形容されたこともあった。しかしアレン・アイバーソン選手がフォーク氏を解雇したあたりから彼の権勢に陰りが見え始め、現在ではほぼ半リタイア状態で7選手と契約しているだけだという。

 だが、まだロドリゲス選手が正式にボラス氏を解雇したわけではない。6年前にも同氏の契約選手のアンドリュー・ジョーンズ選手が、ボラス氏抜きでブレーブスと交渉し、交渉後も彼と契約している例もある。だがボラス氏が契約するトップ選手の“造反劇”は、彼の将来に何らかの影響を残すのは間違いないだろう。

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