イチロー メジャー戦記2001BACK NUMBER
At the Dining. 食事時にもイチロー。
text by
木本大志Taishi Kimoto
photograph byKoji Asakura
posted2001/06/08 00:00
6月3日、対デビルレイズ戦の試合前、メディア・ダイニングでA・シール(シアトルP-I/スポーツ・コラムニスト)、J・ヒッキー(シアトルP-I/ビート・ライター)、C・ジェンキンス(サンディエゴ・ユニオン・トリビューン/ナショナル・ベースボール・ライター)と一緒になった。
会話は図らずもイチローの話題。
口火を切ったのはC・ジェンキンス。
「あの低め球をよく片手一本でセンターまで持っていったなあ(※1)」。
「あれもアジャスト(適応)のいい例だ。相手の徹底した低め攻めを分かってたんだろう(※2)。たった一日でアジャストしやがった。結局昨日もヒット2本だろ? もうデビルレイズには攻め手がないだろうなあ(※3)。ティム・ハドソンとの対戦覚えてる? 開幕戦ではイチロー打てなかったけど、次の対戦の時にはきっちりとセンター前ヒットを打った。あのときにアジャストの才能を感じたね」、とJ・ヒッキー。
A・シールが続く。「確かに、こんなにアジャストの早い選手は見たことがない。メジャーに慣れるのに、少なくとも2カ月はかかると思っていた。でも早いときは、その日のうちにアジャストしてくる(笑)。1打席あれば、その投手の球筋を見極めてしまっているかのようだ」。
「あのヒットは偶然じゃない。イチローの狙い通りだと?」。目を丸くしながらC・ジェンキンス。
「あんなヒット珍しくない。自然に体が反応してる。たまたまじゃない」。素っ気なくJ・ヒッキー。
──たわいもないランチタイムでの雑談。こんな会話が、今ローカル・メディアの間では当たり前のように交わされている。カジュアルな会話だからこそ、本音が見え隠れする──。
「オールスターも決まりだな」、とアート。イチローの話題は続く。
C・ジェンキンスはもう会話に入れない。神妙な顔つきで話に聞き入っている。イチローの凄さをはじめて目の当たりにするライターは、多かれ少なかれこんな反応を見せる。C・ジェンキンスは、実際のイチローを見たのは前日が初めてだった。
食事が終わると、C・ジェンキンスから声が掛かった。
「イチローについて、もう少し詳しく聞かせてもらえないかなあ」。
週末の対戦(※4)までにはサン・ディエゴの新聞にもイチローの特集が載ることになりそうだ。
※1:前日、イチローは1打席目に、デビルレイズのライアン・ループから低めの難しい球を、絶妙なバットコントロールでセンター前にヒット。そのことを指す。
※2:前々日、ブライアン・リカールからうまく低めを責められ、イチローは4打数ノーヒット。デビルレイズのイチローに対する攻略法は低めに絞られていた。
※3:その日の試合でイチローは4打数3安打。J・ヒッキーの予想通りになった。
※4:6月8日からマリナーズはサン・ディエゴ・パドレスと3連戦。