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桜庭電撃移籍の波紋。 

text by

石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph byToshiya Kondo

posted2006/05/09 00:00

桜庭電撃移籍の波紋。<Number Web> photograph by Toshiya Kondo

 「(3日の)発言を聞いたときは、驚きと納得が半分半分という感じでした。今の時代、団体間の移籍話なんてよくあることじゃないですか。桜庭だって例外じゃないだろうし、残された格闘技人生を考えて自分自身で選択したことだと思いますよ」

 野呂田氏は、まるで息子を思う父親のように落ちついた優しい口調で語り、そしてこう続けた。

 「ここ最近、大切な家族を日本に置いて、ひとりブラジルへ出向き修行してきたわけですよね。そういうところで、いろいろと考えることがあったんじゃないでしょうか。まあ、頭のいい男ですから吟味した上の決断だったと思います。本人は大変だと思うけど、私からは、ただ頑張ってほしいというだけ。心配事があるとするならば、膝に負担をかけないようにしてほしいなって」

 格闘技界にとって貢献度の高い桜庭だけに、その衝撃は大きかったが、核心は闇の中とも野呂田氏の発言を聞くにあたり新たな門出をまずは祝うべきなのだろう。総合格闘技をメジャーにした功労者の新たなるチャレンジであり、残りの選手生命はけして長いものではないのだから……。それに桜庭は、ファンの悲願である『HERO'S』(K−1)と『PRIDE』の提携への架け橋になりたいとも記者会見で語っている。この今まで誰も言えなかった発言の意味するところは、今後の格闘技界の行く末を考える上でも大きい。

 しかし、5月5日に行なわれたPRIDEグランプリの会見でDSEの榊原信行社長は、「彼は家族の一員で、信頼関係があれば契約は必要ないと思っていた。愛する気持ちは憎しみにもエネルギーにもなる。気持ちに溝があったということ、僕個人は裏切られたという気持ち」

 と、冷静ではあるが厳しい発言をしている。こう言いたくなる気持ちもわからなくはない。関係者によれば榊原社長は桜庭について多くを語るつもりはなかったが、つい言葉が口をついてしまったという。きっと近親憎悪みたいなものなのだろう。また、『PRIDE』と『HERO'S』(K−1)の関係もしかり……。

 PRIDEグランプリが開催された大阪ドーム。一部週刊誌で騒がれているスキャンダルや桜庭問題に関係なく会場は多くの観衆が集まり大盛況だった。試合内容も悪くはない。

 人が溢れかえるグッズ売り場をふと覗いてみると、そこにはオレンジ色がシンボルカラーの桜庭グッズが数多く置かれていた。どこか釈然としない気持ちが胸に去来する。それらを購入するファンたち。彼らは一体なにを思いTシャツに袖を通すのだろうか。

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桜庭和志

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