Column from GermanyBACK NUMBER
もしもフリングスがユベントスに移籍したら。
text by
安藤正純Masazumi Ando
photograph byTakamoto Tokuhara/AFLO
posted2007/04/10 00:00
ブレーメンと代表チームで“いぶし銀”の活躍を見せるフリングスの心が揺れている。30歳と現役終盤に差し掛かった彼にユベントスから移籍のオファーが届いたのだ。「いつかは外国でプレーしてみたい」と願っていただけに当人は色気十分である。イングランドからも同時にオファーがあったが、「関心があるのはビッグクラブ」ということで、眼中にあるのはユーベだけだ。
移籍金(推定)は800万ユーロ(約12億8000万円)。アンリの1600万、ランパードの1200万には及ばないものの、エインセと同額、ジェラード(750万)より高い。デルピエロが800万、トレゼゲが500万なので、いかにユーベがフリングスを評価しているかが分かる。ちなみにマケレレは500万である。34歳の年齢が価値を下げた。
味方の攻撃を助けながら汗をかく地味なポジションである守備的MFはどのチームでも重宝される。ここ数年、ブレーメンの成績がこれだけ安定しているのもフリングスの存在を抜きにしては考えられない。それは代表チームでも同じこと。昨年のW杯ではチーム1の運動量で中盤の底を固め、バラックの守備の負担を減らすことに成功。準決勝でイタリアに負けたのはフリングスが欠場したからだとまで言われた。それほど彼の貢献度は抜群なのだ。
フリングスの長所はコンディションを崩すことがほとんどないことである。実際、代表での好調ぶりは数年来続いており、先日のユーロ予選(アウェーのチェコ戦)でも90分間走り回って、クラーニィの先制点をお膳立てした。
ジュニア時代から得点能力に優れ、ユースを卒業するまでポジションはつねにFWだった。MFに転向したのは97年、20歳でブレーメンに入団してからだ。ただ入団当初はアマチュアだった。当時の監督はフリングスを「ジャンプ力がない。これじゃFWに向かない。しかしスタミナだけは凄い。いくら走っても疲れないようだ。それにゲーム全体を見通す能力にも長けている」と判断してMFにコンバートした。このアマチュア時代の監督こそが現在のトーマス・シャーフ監督である。
自宅を不意に訪れた子供たちと一緒になって公園でボールを蹴るほど気さくなフリングスが、監督やチームメイトと諍いを起こすことは考えられない。その意味を含めて彼はどのチームに行っても人間関係はうまくいくだろうし、パフォーマンス面で期待を裏切ることもないだろう。
UEFAカップ戦の前日、彼は「移籍問題でクラブが道に置き石をしないように願っている」と皮肉っぽいコメントを出した。ブレーメンとの契約は09年まで続く。オレを自由にしてくれよ、というメッセージである。
クラブの哲学(去るものは追わず)と経営陣の政策(新たな人材を発掘すれば補強は可能)からすれば、恐らくこれといった嫌がらせもなく、フリングスは憧れの海外移籍を実現することだろう。しかし私は彼の性格で果たしてトリノで通用するかどうか疑問である。
04年、熱烈なラブコールを受けてバイエルン・ミュンヘンに移籍したが、いいところなく1年で古巣のブレーメンに戻った過去を思い出してほしい。早々にバイエルンを辞めた理由は実力や戦術といったピッチ上の問題ではなく、田舎育ちの彼が大都会ミュンヘンの水に合わなかったからだとされた。バイエルンのGMはフリングスを「強烈な精神力に欠ける。上昇志向が薄い」と断罪した。
トリノの人口は100万人、ミュンヘンは120万人。ブレーメンはこの半分もない。休日には人口数千人の生まれ故郷に戻って旧友と触れ合うのを楽しみにしているというフリングス。個人的にはプレーヤーとしてあと一段成長してほしいと願っているが、移籍がそのためのハードルだとしたら私も精一杯応援する気持ちである。
ところでユーベのデシャン監督だが、知人が行なった直近のインタビューでこんなことを語っていた。「トレゼゲにタイプが似ているドイツ選手のクローゼは私の好みだ」
えっ、ブレーメンから2人も引き抜くってワケですか?これじゃブレーメンも簡単にイエスの答を出せませんよ。