MLB Column from USABACK NUMBER
絶好調のジョー・マウアーと
ツインズの憂鬱。
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGetty Images
posted2009/05/31 06:00
ツインズの主砲、ジョー・マウアーが絶好調だ。オフに受けた腎臓手術からの回復が遅れ開幕には間に合わなかったが、5月1日に復帰後、打率4割2分5厘・本塁打11・OPS13割7分6厘(数字は5月27日現在)と猛打をふるっている。
まだ26歳と若いにもかかわらず、すでに首位打者を2回獲得している上、昨年はゴールド・グラブ賞も受賞した。「史上最高の捕手」と激賞する向きがあるが、第二次大戦後、捕手が首位打者になったのはマウアーが初めてであったことを考えると、「史上最高」の言葉もけっして大げさではない。
マウアーが活躍しすぎると損をするツインズの胸中やいかに。
しかし、ツインズにとって、マウアーの活躍は嬉しいには違いないのだが、「憂鬱のタネ」でもあるのだから、ことは単純ではない。というのも、マウアーは来季終了後にFA資格を取得する予定となっており、「活躍すればするほど値段が跳ね上がる」ことを考えると、憂鬱にならざるを得ないからである。
今季年俸総額6530万ドルはメジャー第24位、ツインズは典型的な「小市場チーム(small market team)」である。若い選手を育てる上手さでは定評があるものの、育てた選手がFAとなったときの高額年俸を払う財力がないので、折角育てた選手を手放さなければならない宿命を負っている。最近の例でいえば、2007年のシーズン終了後、トリー・ハンター(FAとなってエンゼルスに移籍)、ヨハン・サンタナ(FA資格取得前にメッツにトレード)を失ったばかりである。
『ボストン・グローブ』のニック・カファルド記者は、マウアーがFAとなった場合、「契約期間10年・総額2億ドル」の値がつくと予測している。仮にツインズがこの金額を用意することができてマウアーの引き止めに成功した場合、年俸2000万ドル(平均)はチーム年俸総額の3割近くを占める勘定となる。
チームの象徴ともいえる選手を泣く泣く手放すのか?
ツインズにとって、地元出身のマウアーほど、チームの命運を托す「フランチャイズ・プレーヤー」にふさわしい選手はいない。しかし、長期巨額契約には「大怪我などで年俸の大半を空気に払う結果になる」リスクがつきものであるだけに、「小市場チーム」としては容易な決断ではない。
ところで、そもそも、なぜボストンの記者がマウアーの契約額を予測するのかというと、それは、レッドソックス・ファンがマウアーを喉から手が出るほど欲しがっているからに他ならない。力の衰えが目立つジェイソン・バリテクの後釜として獲得することができれば「捕手については10年安泰」となるのだから、舌なめずりしたくなるのも不思議ではない。
貧乏チームから選手を奪うのはレッドソックス? それともあの……。
しかし、ここで注意しなければならないのは、ここ数年、「レッドソックスが欲しがるFA選手は、ヤンキースが横取りする」のが「決まり」となっていることである(たとえば、昨オフのマーク・テシェラはその好例)。来季終了時点で、ヤンキースはホルヘ・ポサダとの契約がまだ1年残っているが、レッドソックスの鼻をあかすことができるのであれば、ポサダの1年分の年俸1310万ドルなど「軽微な出費」にすぎないのである。
はたして、マウアーが「地元割引(hometown discount)」を受け入れてツインズに残るのか、それとも「市場での価値を知りたい」と、レッドソックス、ヤンキースの金満両チームに「競り」をさせるのか、「史上最高の捕手」の決断が注目される所以(ゆえん)である。