アテネ五輪コラムBACK NUMBER
【ドリーム・チーム史上最大の挑戦】 金への船出は最高な形で。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byShiniciro Tanaka/ PHOTO KISHIMOTO
posted2004/08/17 00:00
完璧なスタートだった。
アテネ五輪野球の日本代表は15日、エリニコ・オリンピック・コンプレックス内にあるベースボール・フィールド1でイタリアと対戦し12対0の7回コールド発進を飾った。
「最高のスタートが切れた。打線も状況に応じてきちっとそれぞれが役割を果たし、上原も完璧なピッチングをみせてくれた」試合後の中畑ヘッドコーチの声は緊張の初戦をこれ以上ない勝ち方で終った喜びと安堵に包まれていた。
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1回。どうしても欲しかった先制点が転がり込んできた。あっさり2死と追い込まれてから3番高橋が選んだ四球がきっかけだ。続く城島の中堅左への打球をフランシアがファンブル。その間に一気に高橋が本塁を駆け抜けた。続く中村の中前適時打で2点目を奪うと、3回には日本が持ち味を発揮した攻撃で追加点を挙げた。
「最初の打席で内角に詰まったんで、弱いと思って攻めてくると思ってました。見逃せば完全なボール。思い切って体を開いて打ちました」キャプテン宮本の左翼への安打がきっかけだ。すかさず高橋の2球目に二盗し、投ゴロの間に三進。ここで城島が右中間に適時二塁打すると、とどめはノリだ。イタリア先発のマッシミーノの外角真っ直ぐを逆らわずにジャストミートすると打球は右翼フェンスを越えた。
パルマキャンプから首脳陣が気にしていたエリニコ独特気象環境。「普通は海から山に風邪が吹くんだけど、アテネは逆。山から海へと風が吹き降ろしてくる」(中畑ヘッド)という独特の風をうまく利用した。この日、日本打線が放った13本の安打の内、実に10本がセンターから右方向に放ったものだった。
「みんな逆らわずにつないでいくという気持ちで打席に立っていた」(中畑ヘッド)つなぎの気持ちが右方向への打球につながった。その気持ちがエリニコの風に打球を乗せた。決して偶然ではない。生まれるべくして生まれた大量安打は日本野球の自信へとつながるものだった。
この打線の大量援護に開幕先発を任された上原も余裕のピッチングで答えた。
先頭のフランシアを140kmのストレートで空振り三振に仕留めると、6回を投げて許した安打はわずか3本。心配されたストライクゾーンも「思ったより外角をとらないで日本のゾーンに近かった」と真っ直ぐとフォークのコンビネーションで直前の練習試合でキューバから5点を奪ったイタリア打線を完璧に料理した。
前夜には宮本主将を中心に選手だけでミーティングを行なった。「カズオ(松井稼頭央)のビデオをみんなで観たんです。去年のアジア最終予選では一緒のチームだったけど、今回は来れなかったから。“頑張ってください”っていうメッセージでした」ここにいる24人だけのチームではない。昨年のアジア予選を共に戦いながら、今回は外れた選手もいる。いや、その後ろにはすべてのプロ野球選手がおり、応援してくれているすべての野球ファンがいる。そして長嶋監督がいる。
試合前の選手の紹介。スタッフが持つ背番号3のユニホームに触って全員がグラウンドに飛び出した。そして試合中もそのミスターが着るはずだったユニホームをベンチに掲げて戦った。
長嶋ジャパン―。日本野球の夢を乗せたドリームチームが金メダルへの第一歩を踏み出した。