アテネ五輪コラムBACK NUMBER
【女子サッカー、なでしこジャパン総括】
歴史に刻んだ、たくましい成長ぶり
text by
木ノ原久美Kumi Kinohara
photograph byHiroki Sugimoto/PHOTO KISHIMOTO
posted2004/08/24 12:33
日本女子代表のメダルの夢は準々決勝で消えた。
8月19日、日本はテッサロニキのカフタンゾグリオ競技場で米国と対戦し、2-1で敗れ、アテネ・オリンピック大会準決勝進出はならなかった。
「選手はよくやった。あれは私の責任」と、決勝点となる後半の失点を上田監督は嘆いた。
一次リーグのスウェーデン戦でもうまく機能したオフサイドトラップを、日本は後半12分の米国FWミア・ハムのFKで仕掛けた。ところが、サイドからの長いFKにラインコントロールが合わずに失敗。ラインを上げる日本DF陣と入れ違いにMFタープリー、リリー、ボックスらにゴール前に上がられ、GK山郷が相手と1対4になり、最後はFWワンバックに決められた。
「練習もしたし、指示も出した。だから戦術面での私のミス」と上田監督は言った。
前半から米国に押し込まれる苦しい展開。同42分には日本のクリアミスからMFリリーに先制点を決められるが、日本は後半2分のMF山本のFKで帳消しにしていた。米国にゲームを支配されながらも、我慢強くしのぎながらチャンスをうかがっていたところでの失点だった。
「2点とも自分たちのミスというのが悔しい」とMF酒井は言った。「あの失点で無理にボールを奪いに行かなくてはならなくなった。でも相手にボールを回されて…。その辺はうまさがある。」
15戦して日本は0勝3分け12敗。6月の遠征で対戦して引分けてはいたが、今回相手は「本気モードできた」(DF下小鶴)。世界ランク2位の米国から、またも白星を奪うことはできなかった。
とはいえ、落ち着いた試合運びで同点に追いつくあたり、以前は見られなかった自信がチームに感じられた。
FW大谷は「失点しても追いつく力がこのチームにはある」と言い、ナイジェリア戦で足に8針を縫うケガをしながらこの試合に戻ってきたMF宮本は、「ベスト8で満足できるような力じゃない」と悔しがった。それも選手が自分たちの成長に手ごたえを感じた証だろう。
1996年アトランタ大会で新種目となった女子サッカー。そこに登場した日本は3戦全敗だった。今回、2大会ぶりに出場して1次リーグで優勝候補のスウェーデンを破り、その後のナイジェリア戦では惜敗したものの、自力で決勝トーナメント進出を勝ち取った。
「スウェーデンともしっかり準備すれば勝てるということに、選手の進歩を感じた」と上田監督は言い、「体格で勝る相手とこういう戦いかたをすればいけるという方向性は確認できた」と今大会の収穫を口にした。だが、その一方で、「すぐにメダルに届くようなところではなかった。もうちょっとのところで経験不足だった」と反省も。
2年前に初めて女子のチームを率いることになって、戸惑いながらも始めた同監督だったが、すぐに選手の真剣さと向上心の強さに打たれたという。打てば響く選手たちの熱心な反応にやりがいを感じながら、ここまでチーム作りを進めてきた。そんな監督への選手からの信望も厚く、下小鶴は「監督のやり方はわかりやすく、筋が通っていて一貫性があった。そのおかげでチームがひとつにまとまった」と話した。
チームのシステムもアジア五輪予選前に3バックから4バックにDFラインを変更して以来、組織が安定した。同時に、「選手の個性が見えてきて、それが組織の中で生かせるようになった。選手たちもこういうことをすれば自分たちの個性を生かせるとわかってきた」と、監督は終盤のチームの“伸び”の要因を明かした。
たくましい成長ぶりを示し、前回よりもメダルへ一歩近づいたものの、十分ではなかったのも事実。世界のトップへさらに近づくために、今後なににどう取り組んでいくか。
選手個々がレベルアップする努力が必要なのはもちろんのこと、今回このチームで築いたものをベースに、チーム作りにある程度一貫性を持たせて、さらに積み上げていくことも必要だろう。
今回の女子の活躍に刺激されて、体格のいい子供たちがサッカーを始めてくれることを願う関係者も少なくないが、男子に比べてまだまだ少ない競技人口や整備途中のL・リーグなど、課題を多くかかえる女子サッカーの周辺環境の充実も忘れてはならない。より多くの海外遠征なども、経験不足を補うためには一考だろう。
「ほんのちょっとの差が大きな差」(磯崎)、「細かいことを詰めて100%に近づけないとだめ」(下小鶴)という声が選手から聞こえてきた。彼女たちが今大会で感じたことを、無駄にしてはならない。