MLB Column from USABACK NUMBER
ヤンキース、財力故に陥った悪循環。
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byREUTERS/AFLO
posted2009/04/12 07:00
いよいよシーズンが開幕した。今季、MLB最大の関心事は、「ヤンキース、レイズ、レッドソックスの最強3チームがひしめくア・リーグ東地区の帰趨」と言っても過言ではないだろう。何しろ、3チームとも力は他の27チームより優るというのに、少なくとも1チームはプレーオフに出場することができないのだから厳しい。
特にヤンキースの場合、昨季プレーオフ進出を逃しただけに、今季にかける意気込みは一際強い。オフには総額4億2400万ドルを投じて、マーク・テシェラ、C・C・サバシア、A・J・バーネット等を獲得、「勝つためには金に糸目をつけない」姿勢を改めて見せつけた。
圧倒的な財力に物を言わせてスター選手をかき集めるヤンキースのやり方が、他チーム・ファンの怨嗟の的となっているのは言うまでもない。しかし、ヤンキースの場合、実は、金に糸目をつけずにスターFAを獲得することを繰り返してきたことが、長期戦略上の最大の足枷となっているのだからこれほど皮肉なこともない。こんなことを書くと、「毎年、良い選手ばかり買い集めることを繰り返したら、なぜ長期的には不利になるのか? 良い部品ばかり集めて全体を作れば悪い部品で作った機械より良くなるに決まっているではないか?」と疑問に思われる読者がいるかもしれないので、説明しよう。
長期契約を結んだスターFAが次々と年老いていく
毎オフ、FAの中からベストの選手を買い占めるやり方は、短期的に見れば確かに有効なやり方である。しかし、問題は、スターFAと契約するためには、「長期」契約を強いられることにある。たとえば、A・ロッドとの契約は2017年まで続くが、契約終了時点でのA・ロッドの年齢は42歳、選手としての力が下り坂にさしかかった後も、長期にわたって高給を払い続けなければならないのである。
しかも、力が衰えるだけならまだいいが、年を取れば取るほど故障で欠場する確率も高くなるので、その場合、欠場期間は空気に給料を払っているのと変わらない。A・ロッドの場合、昨季開幕直後ハムストリングの故障でDL入りしたが、今季もオフの股関節手術でDLでの開幕スタート、今後9年間どれだけ「五体満足」でプレーできるかが不安視されているのである。
さらに頭が痛いことに、長期契約のリスクは個々の選手の力の衰えや怪我の危険にとどまらず、チームの長期戦略にも深刻な影響を与える。スター選手との長期契約が増えれば増えるほど、チーム全体の長期戦略の「フレキシビリティ」が損なわれるのである。
A・ロッドが居座って……松井秀喜が割りを食う
ヤンキースの場合、たとえば、A・ロッドが三塁のポジションを2017年まで、オフに8年契約で獲得したマーク・テシェラが一塁のポジションを2016年まで塞ぐことが決まっている。そのため、近年守備範囲が著しく狭まっているデレク・ジーターを遊撃からコンバートしようにも、三塁と一塁が塞がっているので、左翼ぐらいしかコンバート先がない。さらに、昨季肩の怪我で長期欠場したホルヘ・ポサダを将来的に捕手からコンバートしようとした場合、一塁が塞がっているので、指名打者しか使い道がない。チームの功労者、ジーター、ポサダにそれなりの処遇を用意しようとすると、左翼・指名打者を「開けて」おく必要が生じるので、今オフ、契約が切れる松井秀喜の処遇にも影響が及ばざるを得ないのである(さらに今季終了後FAとなる左翼手、マット・ホリディ、ジェイソン・ベイのどちらかに食指を伸ばした場合、松井残留の可能性はさらに狭まらざるを得ない)。
自前の選手が育たないまま、黄金時代復活はあり得るのか?
1995年以降、ヤンキースは13年連続でプレーオフに進出する「黄金時代」を築いた(ワールドシリーズ優勝は4回)。この黄金時代の「核」となったのは、95年にデビューした、ジーター、ポサダ、マリアノ・リベラ、アンディ・ペティート等、自前で育て上げた選手達だった。
しかし、最近は長期契約のスター選手がポジションを占めることが続いているせいで、若い選手が出てくるチャンスは著しく限られてしまったし、じっくり育てる余裕もなくなってしまった(いま、自前で育てた若手でレギュラーの位置を確保しているのはロビンソン・カノーただ一人だが、若いときのジーター、ポサダと比べた場合、レベルが格段に劣るのは否定しがたい)。
若い選手が育たなければ、ますます金でFAを買わざるを得なくなるので、一層チームの若返りは難しくなる。財力に物を言わせてFAスター選手をかき集めることを繰り返している間に、「若手が育たない→FAスター選手を買わざるを得ない→若手が育たない→……」という悪循環に陥ってしまったのである。