セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
世界王者を襲う不幸。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byAFLO
posted2008/08/15 00:00
2008年夏の某日。ACミランの練習場からMFカカの姿が消えた。左太ももに違和感を訴え、エースが嘆く。「痛い…」。
クラブの公式サイトによると精密検査の結果「左大腿筋と膝がい腱の炎症で全治数週間」と診断され、8月30日のリーグ開幕戦への出場も微妙となった。左半月板の手術を5月23日に受けた影響を感じさせず戦列に復帰したカカであったが、再びドクターストップとなったことで普段に無く暗い表情を浮かべた。
「点取り屋たちがケガで全滅」
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本来なら、昨季のメンバーに新戦力が着実に上積みされるべきところ、ジェノアから返り咲きしたFWボリエッロが重傷を負い、古傷の悪化でインザギは戦列離脱とアクシデントが重なった上に、ミランはカカまでも失った。ロナウジーニョの入団で最強布陣の完成度も高かったものの、ふたを開けてみれば、看板選手を欠くという非常事態。今シーズン、チームの核をなすだろう前線のパトとロナウジーニョのブラジル人コンビは現在北京五輪参加中と外因も手伝い、他クラブを圧する攻撃力を有するはずのミランに残されたFWは18歳のパロスキと、“まさか”の現状にチームの危機感はピークに達した。
ストライカー不在で伊メディアはミランにFW補強を仰げば、これ以上の出費を懸念するクラブ幹部は補強不要を掲げた。アンチェロッティ監督には、パロスキだけでも勝てるという目算もあって若手FWに仕事を託したが、イレブンのパロスキへの信頼感が薄いために、戦い方は裏目に出た。プレシーズンマッチ6戦のうち、PK戦以外は勝利なしの3敗3引き分け。ゴールは先月29日ユベントス戦でMFセードルフが献上した2得点のみのスコアもセリエAの盟主が負のスパイラルに陥っていることを物語った。
主力選手のケガで劣悪環境なのはわかるが、深刻なのは現状の戦闘力に勝利への渇望が見られないことである。
先の英国勢とのプレシーズンマッチではチェルシーに5−0、そしてマンチェスターシティに1−0と負けを喫し、その打開策を問われた指揮官だが「戦力を欠く状況では攻守面で構想どおりのサッカーを展開するのは不可能」と言い捨て、修正点に触れることさえ拒んだ。
プレミアリーグ独特の激しい接近戦では、コマ不足とあっては世界王者も歯が立たないことは予測できた。しかしながら、セリエA開幕までに与えられた時間は少ないだけに、強豪とのプレシーズンマッチはリーグを見据えたテストに値する大事な一戦。攻撃の手詰まりに、ミスから失点を重ねた現実を見つめ、指揮官が一刻も早くチーム改革に着手しなければ、ミランであれども開幕直前で空中分解してしまう。
冒険により大きなリスクが伴ったのなら、既存選手に信頼を寄せて、チームの一体感触化を求めること。セードルフに攻撃的潜在力を覚醒させ、アーセナルでもまれ、高いフィジカルの新加入MFフラミニに白羽の矢を立てて、「受け手が先手を取るスタートを切る」というセリエA独特の戦い方に注力すれば、好機さえつくり出せない悪循環を克服できるのではと思われる。
開幕戦、打倒ボローニャの刺客は超一流選手のカカやロナウジーニョではなく、修羅場を知り尽くしたジョカトーレなのだから。