総合格闘技への誘いBACK NUMBER
'06年の残念な滑り出し。
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byToshiya Kondo
posted2006/03/02 00:00
2月に入り、『K−1 WORLDMAX』や『PRIDE』が開催され、いよいよ今年も格闘技界が動き出したな、と思っていたそのとき、とんでもない“出来事”がいくつか耳に飛び込んで来た。
まずひとつが、2月17日に行なわれた『修斗代々木大会』において、山本“KID”徳郁が、リングドクターに暴行を働いたというものだ。KIDは、同じジム(KILLER
BEE)に所属する菊地昭への処置・判定を不服とし、試合後、中山健児リングドクターに暴言を吐き、軽く尻を蹴ったという。
この試合、菊池は額から出血したのだが、KIDとしては、それがバッティングの反則によるものだと勘違いし(事実は相手の肩がぶつかったことにより出血)、激昂してしまったようだ。ブラジルのアカデミーのように仲間意識や結束の強いKID軍団ではあるが、やはりこれは許されることではない。暴言や恫喝、ましてや程度に関わらず暴力から解決するものは何もないことは、肉体を使うアスリートだからこそ理解しておいてほしかった……。
KIDは、協会から「全公式戦会場への立ち入り禁止処分」を受けたものの、後日、中山ドクターと和解が成立し、記者会見で反省の弁を述べるに至ったが、HERO'Sのミドル級王者として社会的知名度の高いKIDの蛮行は、ファンや子供たちにどんな思いを抱かせただろうか。記者会見で「リングの上で頑張っていきたい」とKIDは言ったが、スポーツ界を見渡せばわかるように“王者”とはリング外でもその品格を問われる存在であることを忘れてはいけない。
「軽く尻を蹴られただけ。暴行ではなく、侮辱されたと思った」
中山ドクターの言葉に、今回の事件の本質的な哀しみを見るようだった。
続いては、2月25日付けの新聞で報道された、2003年大晦日格闘技イベント『イノキボンバイエ2003』の主催者社長が指定暴力団山口組幹部に恐喝されたという事件である。エメリヤーエンコ・ヒョードルの出場をめぐって「誰のおかげでうまくいったと思っているんだ。用意できなければ本当に殺されるぞ」と、謝礼金名目で2億円を脅し取ろうとした疑いにより暴力団員は逮捕された。
格闘技界とダークサイドの繋がりは、まことしやかに囁かれていたが、このように完全にオープンになって報道されたのは、初めてのことではないだろうか。多額のオカネが動く大きな興行の世界、キレイごとでは済まされないのは当然なのだろうが、ダークサイドと一切の接点を持たず健全な経営をしている団体が多いのも事実。それらの団体に社会的悪影響が及ばないか心配になる事件だった。
そして最後は、まもなく創刊20周年を迎えるはずだった老舗格闘技雑誌『ゴング格闘技』(日本スポーツ出版社)が休刊になるという話だ。
通称『ゴン格』は、団体の意向にあまり迎合せず、しっかりとしたスタンスをもった、いわゆる『御用雑誌』の風情ではない硬派な誌面が売りだった。特にこの1年あまりは海外情報をふんだんに掲載し、ネットでは決して手に入らないマイナー情報までを網羅した、選手やマニアには好評を得る雑誌に生まれ変わっていたのだが、突然、2月23日売り号の校了日翌日に編集長が更迭されてしまった……。もちろん2月発売号には翌月号の予告を誌面に残したままである。
なぜこんなことが起きてしまったかは、ここでは割愛するが、今後は全スタッフ刷新して、新雑誌が立ち上がるという(雑誌名は据え置きかもしれない)。
気骨で意気のある雑誌が消えてしまうのは、寂しい限りだし、これは格闘技界にとっても損失だといえるだろう。誤植も多い雑誌だったけど、揺るぎない整合性と“格闘技愛”を感じる誌面作りに、まずはおつかれさまと言いたい。
そして、また会いましょう、とも……。