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独走レッドソックスが抱える「大弱点」 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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posted2007/06/19 00:00

独走レッドソックスが抱える「大弱点」<Number Web> photograph by AFLO

 開幕以来首位を独走してきたレッドソックスだが、6月に入って5勝7敗(以下、数字は6月13日現在)と勢いが衰えてきた。14.5あったヤンキースとのゲーム差も8.5に縮小、「逆転」の可能性さえ囁かれるようになっているが、勢いが衰えた最大の原因は打線の不振にある。5月までの1試合平均5.4得点が、6月に入って3.9得点と、大きく落ち込んでいるのである。

 低調な打線の中でも、特に不振を極め、「大弱点」となっているのが、開幕から1番をまかされてきたフリオ・ルーゴー遊撃手だ。フランコーナ監督は「いつか打ち始める」と辛抱強く1番を打たせ続けてきたが、打率2割1分1厘・出塁率2割7分0厘の絶不調に、ついに6月12日、9番に降格せざるを得なかった。

 実は、レッドソックスにとって、遊撃の「大弱点」は、今に始まったものではない。2004年のシーズン、トレード期限直前に、守備範囲が著しく狭くなったノーマー・ガルシアパーラを放出、オーランド・カブレラ(現エンジェルス)を獲得したことが、その年、86年ぶりにワールドシリーズ優勝を遂げるきっかけとなったのは有名な話だが、以後、FAでスター遊撃手を獲得しては、成績が不満で他の選手に切り替えるということを、毎年繰り返しているのである。

 04年のシーズン後、次代を担う遊撃手としてテオ・エプスタインGMが白羽の矢を立てたのが、エドガー・レンテリアであった。しかし、期間4年・総額4000万ドルの大型契約で獲得したものの、レンテリアは、05年30失策と守備が乱れ、たった1年在籍しただけで、ブレーブスに放出されてしまった。代わって獲得したのがアレックス・ゴンザレスだったが、06年、守備で名手ぶりを発揮したものの打撃が振るわず、これも再契約にいたらなかった。

 カブレラから数えるとルーゴーは4代目になるが、昨季終了後、4年越しの遊撃手問題解決の「切り札」になるという触れ込みの下に獲得しただけに、その不振に、エプスタインGMの責任を問う声が上がっている。というのも、ただルーゴーという「ダメ選手」を獲っただけでなく、この間、エプスタインが放出してきた若手遊撃手が、いま、他チームで大活躍しているからである。たとえば、03年のシーズン途中にパイレーツに放出したフレディ・サンチェス(現在は二塁手)は、昨季ナ・リーグの首位打者になるまでに大成したし、05年のシーズン終了後にマーリンズに放出したハンリー・ラミレスは、昨季ナ・リーグ新人王を獲得、今季も3割2分0厘と打ちまくっている。

 それだけでなく、たった1年で「もう落ち目」と見切りをつけたレンテリアまでもがブレーブスで復調、守備の確実さが戻っただけでなく、今季、やはり3割2分0厘と猛打をふるっている。というわけで、ここ4年間、遊撃手補強に関してエプスタインが打ってきた手は、ことごとく裏目に出てきたのだから、責任を問う声が出てくるのも当然だろう。

 ルーゴーは、開幕後わずか2ヶ月で、「ここ4年間に獲得した遊撃手の中で最悪」という烙印を押されてしまったが、ただ打撃がふるわないだけでなく、守備も不安定ときているので、一層ファンに嫌われている。たとえば、6月7日の対アスレチックス戦、カート・シリングは、9回2死から飛び出たシャノン・スチュアートのヒットで惜しくもノーヒット・ノーランを逃したが、この試合、もし、5回裏にルーゴーがエラーをしていなかったら、スチュアートに打順が回る前に、「完全試合」が成立していたはずだった。

 いわば、シリングは、ルーゴーのせいで完全試合を逃したわけだが、心配性のレッドソックス・ファンの中には、「あのアスレチックス戦は、ルーゴーのせいでヤンキースに逆転優勝を許してしまうという前兆ではないか」と、不安におののく向きも出始めているのである。

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