フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
女子フィギュア表彰台の3つの涙と、
浅田真央が実現したひとつの夢。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2010/02/26 20:30
女子メダリスト3人の、それぞれの涙。
浅田真央は、泣きはらした目をして記者会見にやってきた。
「今日は少しミスがあって、少し悔いが残る演技でした。でもメダルをもらえたことは、嬉しいです」
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一生懸命、冷静さを保とうと努力をしているのが痛々しく、けなげだった。
確かにフリーは完璧ではなかった。3フリップの着氷が乱れて回転不足になり、その後に予定していた3トウループでは、エッジが何かに引っかかったようでテイクオフのタイミングを逃した。フリーは131.72、総合205.50で2位。あれほど夢見た、金メダルには届かなかった。
でも浅田真央は、もうひとつの夢は実現させた。五輪で3アクセルを、合計3回成功させるという夢。
3回の3アクセルに挑んだ、誇り高き浅田真央。
これまで女子による五輪での3アクセルは、1992年アルベールビル五輪で伊藤みどりがフリーで一度成功させたのが、最初で最後だった。
浅田はこのバンクーバーで、SPで1回、フリーで2回成功させて、これまで誰も成し遂げることのできなかった記録を作り、夢を叶えた。現在女子の中で、試合で3アクセルをプログラムに入れているのは浅田だけ。この新記録はおそらく、この先しばらく破られることはないだろう。
それでも浅田は、ベストな演技ができなかった悔しさ、金メダルを逃した悔しさから、号泣した。だが私はその涙が、浅田自身のためであるのを感じてほっとしていた。
五輪ともなると、選手には様々な重圧がかかる。国の代表という重み、世間からの期待、スポンサーへの義務感。
アルベールビル五輪で銀メダルを獲得した伊藤みどりは記者の前で、「金メダルでなくて、ごめんなさい」と口にした。あれほど胸が痛んだ言葉はない。当時の伊藤みどりは、国全体の期待を一身に背負って、アジアの小国から西洋社会にチャレンジするという悲壮感に満ちていた。
でも浅田真央には、そんな悲壮感はまったく似合わない。ほかの誰のためでもなく、最後まで自分の理想を追うために伸び伸びと滑って欲しかった。そして精一杯の演技をし、彼女の誇りである3アクセルを、合計3回降りた。
そのことだけで、浅田真央はこの五輪でやるべきことを、立派にやり遂げたのだと思う。
3アクセルのポイントが、この採点システムで低すぎるのではないかという意見についての感想を聞かれると、浅田はこう答えた。
「採点については、何も言えません。でもこの五輪という舞台で、3アクセルを3回成功させたことは、誇りに思っています」