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巨人のエースは新人の澤村拓一!?
QSがあぶり出す、投手の本当の価値。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byTamon Matsuzono
posted2011/05/29 08:00
今季7試合を投げて最低でも6回以上、最大自責点3という成績を残している澤村。メジャーの基準だと全試合QSということになる素晴らしい成績ともいえる
最近、日本のテレビでメジャーリーグ中継を見ていたら、「クオリティ・スタート」の説明をしていた。
ほほぅ。日本も変わったものじゃ。
思わず感心してしまった。それだけ日本でもクオリティ・スタート(QS)が認知されたということだろう。
QSとは、一般的に先発投手が6回以上を投げ、自責点を3点以内に抑えた場合のことを指す。試合を壊さず、十分に作れたことを示す評価基準だ。
もともとQSはスポーツライターが提唱した基準である。1985年、「フィラデルフィア・インクワイアラー」のジョン・ロウが発表したものとされているが、面白いのはスポーツライターの発想が、いまやメジャーリーグの発想の主流になってしまったことだ。
メジャーでは先発5人、ブルペンを6人か7人で回している。「投手は消耗品」という考え方が浸透しているため、各球団の首脳陣は先発だけでなくブルペンの負担も最小限に抑えた形でシーズンを乗り切りたいと考えている。
つい最近まで、先発に120球以上を投げさせる監督もいたが、そんなことをしているとクビになりかねないので、投球数についてはここ数年でかなり厳密に守られるようになってきた(アメリカのテレビ中継では投球数を表示する放送局もある)。
逆に先発投手にとっては、仕事上の責任が明確化したと言える。
日本人メジャーリーガーのQSはどうなっている?
この基準に則って、現在メジャーでプレーする日本人先発投手のQSを見てみよう。
防御率 | 先発数 | 勝敗 | QS | |
---|---|---|---|---|
黒田博樹 (ドジャース) | 3.11 | 10 | 5勝4敗 | 7 |
松坂大輔 (レッドソックス) | 5.30 | 8 | 3勝3敗 | 2 |
野茂英雄 (ドジャース) | 2.54 | 28 | 13勝6敗 | 18 |
玄人筋に評価の高い黒田は、10回登板して7回のQSとしっかりと仕事をしている。勝利数が追いつかないのはドジャースの打線が不振ということもあるだろう。
故障者リスト入りした松坂は、8回中2回。なかなかゲームを作ることが出来ておらず、ブルペンへの負担が大きい投手といえる。特にレッドソックスは投手陣のマネジメントが厳密な傾向にあり、チーム内での評価が高まらないのは、このあたりにも原因がありそうだ。
参考までに歴史をさかのぼり、野茂英雄がメジャーデビューした年を調べたところ、5月下旬から7月中旬まで、なんと12連続のQS。これはたしかにオールスターの先発に選ばれるだけのことはあると感服した。
このシーズン、野茂は28回の先発中、QSは18回。チームの先発ローテーションのなかで、シーズン序盤はエース級の活躍、通しで見ても2番手としての仕事は十分に果たしたと言える。