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アーセナル若返りの深いワケ 

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原田公樹

原田公樹Koki Harada

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posted2006/03/20 00:00

アーセナル若返りの深いワケ<Number Web> photograph by AFLO

 アーセナルは強いのか、弱いのか。近所のパブへ行くと必ずこの議論になる(わが家はアーセナルのファンが多い北ロンドンにある)。8日の欧州チャンピオンズリーグ(以下CL)で、レアル・マドリードを破って準々決勝へ進出したが、プレミアリーグではすでに 10敗し、5位に低迷しているからだ。FA(イングランド協会)カップとリーグカップもすでに敗退したから、このままでは今季も無冠だろう(一度も欧州王者になったことのないアーセナルがCLで初優勝するのは至難の業である)。

 ではアーセナルはなぜ苦しんでいるのか。ベンゲル監督が、急速に世代交代を図るという大博打を打ったからだ。最近、久々にアーセナルを見た人は、知らない選手ばかりで驚いただろう。今季限りで本拠地ハイバリーを閉鎖するから、昔のユニホームと同じエンジ色を着ているが、その中身はとにかく若い。8日の欧州CL、レアル戦で先発したフィールドプレーヤーの平均年齢は23.9歳だった。2年前に国内で2冠を獲ったときの主力はアンリ、リュンベリ、ジウベルトだけで、あとはこの数年間で他のクラブやアカデミーからトップチームへ昇格してきた若手ばかりだ。

 アーセナルは一昨季にはウィルトール、カヌ、昨季にはビエラらを放出したが、代わる大型補強をしなかった。いや、正確にいうならば、補強したくてもできなかったのだ。総工費3億9000万ポンド(約819億円)という新スタジアムを建設するため、この数年間、選手補強に使える資金は限られていた。アブラモビッチ氏がチェルシーを買収し、ショーン・ライトフィリップスなど、アーセナルが獲得を目指していた選手が、チェルシーに高い値段で買われていったことも影響した。さらにアシュリー・コール、キャンベルらがケガで戦線から離脱したため、ベンゲルは急速な若返り策を断行せざるを得なかった。ベンゲルの選択肢には、危険なギャンブルしかなかったのである。その結果、アーセナルは力が安定せず、リーグ戦で10敗して、首位のチェルシーに勝ち点25差以上もつけられてしまった。

 もしこのまま今季リーグで4位以内に入れず、来季欧州CLの出場権が得られなければ、事態はかなり深刻になる。アーセナルは今季限りで、本拠地として 93年間使ってきたハイバリー(3万8000人収容)を離れ、6万人収容のエミレイツ・スタジアムへ引越しすることが決まっている。CLに出場できなければ、せっかく箱が大きくなるというのに年間の試合数は減り、観客動員は期待できず、テレビ放映権も激減してしまう。そうなれば計2000-2500万ポンド(約40-50億円)の減収になるといわれている。

 昨季のアーセナルは、前年とほぼ同額の1億1500万ポンド(約242億円)の収入を維持したが、欧州のクラブ長者番付では6位から10位へ転落した。各主要クラブが着々と収入を伸ばすのと対照的に、アーセナルは入場料収入が頭打ちだったからだ。

 プレミアリーグで何とか4位以内に終わって、来季のCL予選を勝ち抜いてCL本戦へ進むか、(ほとんど無理な話だが)今季CLで優勝して、チャンピオンとしての出場権を得なければ、クラブの経済状態は困窮を極める。抜本的な財政建て直しを強いられ、アンリを売却→チーム力低下→07-08年シーズンもCL出場を逃す、となれば、ベンゲルさえ首が怪しくなってくる。

 ただし、無理やり試合に使うと若手は伸びる。21歳のセンターバック、スイス代表のセンデロスは試合を重ねるごとに安定してきたし、センターMFの22 歳のフラミニは左サイドバックも器用にこなせるユーティリティ・プレーヤーに成長した。この1月に獲得した19歳のMFディアビー、トーゴ代表の21歳のFWのアデバイヨールは、早々にリーグデビューしていまや準レギュラーだ。

 レアルを破って2年ぶりに8強入りしたベンゲル監督はこう言った。

 「この2、3ヶ月でチームは急速に成長したと思う。このチームに何か起こっている」

 もしもベンゲルの言うとおり、この若いアーセナルに「何か」が起き、最終的に4位に食い込むことができたら、近所のパブでの論争は──。アーセナルは強くなる、と決着づけることができるだろう。

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