MLB Column from USABACK NUMBER

マリナーズ解雇GMが集めた
「アホウドリ」たち。 

text by

李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2008/06/19 00:00

マリナーズ解雇GMが集めた「アホウドリ」たち。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 6月16日、マリナーズGMのビル・バベシが解雇された。24勝 46敗(勝率3割4分3厘)はメジャー最悪の戦績(以下数字は6月16日終了時点)、しかも、バベシが大型トレードや巨額契約で獲得した「目玉」選手が、ことごとく期待を裏切る不振に陥っているのだから、首を切られたのも当然だった。

 大枚をはたいて獲得した選手が「外れ」の活躍しかしなかったとき、その契約を「アホウドリ」契約と呼ぶことは、以前に本欄で紹介したとおりだが、バベシの場合、結んだ大型契約のほとんどすべてがアホウドリ契約となってしまったのだから、その「不運」は際立っている(「不運ではなく無能だったのだ」と決めつける人もいるが……)。

表1 マリナーズ打者中のアホウドリ選手(青字)

打順 選手 守備位置 OPS(守備位置別リーグ平均) 2008年年俸(万ドル)
1 イチロー 右翼 0.738 (0.774) 1,700
2 J・ロペス 二塁 0.718 (0.709) 50
3 J・ビドロ DH 0.589 (0.757) 850
4 A・ベルトレ 三塁 0.731 (0.762) 1,200
5 R・イバネス 左翼 0.759 (0.759) 550
6 R・セクソン 一塁 0.681 (0.751) 1,400
7 城島健司 捕手 0.568 (0.718) 520
8 W・ブルームキスト 中堅 0.495 (0.745) 183
9 Y・ベタンコート 遊撃 0.697 (0.656) 138

(アホウドリ選手の定義については本文参照のこと)

 「外れ」の選手ばかりでチームを編成したら成績が悪くなるのは必定だが、たとえば、マリナーズのチームOPS(出塁率と長打率の和)6割7分9厘はリーグ最下位である(ちなみにリーグ平均は7割3分6厘)。表1にバベシが解雇された当日、6月16日のマリナーズの先発メンバー(打者)のOPSと今季年俸を記したが、ここで、「アホウドリ」選手の定義を

(1)500万ドル以上の高額年俸にもかかわらず、OPSが(同一守備位置での)リーグ平均よりも1割以上劣っている、あるいは、

(2)1000万ドル以上の巨額年俸にもかかわらず、OPSがリーグ平均よりも悪い選手、

と定義した場合、なんと先発メンバー9人中5人がアホウドリ(表では青字で示した)と認定されるのである。(ちなみにリーグベストの勝率を誇るレッドソックスの場合、規定打席数に達しているレギュラー選手中で、アホウドリと認定される選手は一人もいない)。

 一方、投手力を見た場合、チーム被OPS7割7分1厘はリーグ12位(リーグ平均は7割3分1厘)と、バベシは投手陣の編成にも失敗した。ただし、救援陣の被OPS7割0分1厘はリーグ7位、「外れ」に終わった戦犯は先発陣に集中している。表2に、先発投手陣の被OPSと年俸を記したが、打者の場合の「OPS」を「被OPS」に入れ替えた定義をあてはめた場合、先発5人中、なんと3人がアホウドリと認定されるのである。

表2 マリナーズ先発投手陣中アホウドリ選手(青字)

投手 被OPS 2008年年俸(万ドル)
F・ヘルナンデス 0.685 54
E・ベダード 0.711 700
C・シルバ 0.841 700
M・バティスタ 0.864 900
J・ワッシュバーン 0.877 985

(被OPSのリーグ平均は0.731)

 マリナーズの場合、今季のチーム総年俸1億1767万ドルはメジャー9位だが、実に7割強に当たる8255万ドルをアホウドリ選手に支出する結果に終わったのだから、バベシの不手際ぶりは光る。しかも、バベシの首を切ったからといって、アホウドリ問題が解決したわけではないから、後任GMに誰が就任するにせよ、チーム立て直しには時間がかからざるを得ない。というのも、マリナーズが抱えるアホウドリの中には、まだ、契約期間が長期に及んで残っている選手も多く、チーム再建の足枷となりかねないからである。

 こういった状況の下、今後、大きな足枷になるのではないかと心配されている選手の代表が、2011年まで契約が残っている城島である。OPS5割6分8 厘は、今季これまで175打席以上に達しているア・リーグ112人の打者中108位と、「メジャー失格」の烙印を押されてもしかたがないような不振に陥っているのだが、昨季の7割5分5厘と比べて2割近い悪化が、はたして年齢(32歳)による衰えという非可逆的なものなのか、それとも一時的なスランプによる可逆的なものなのか、ファンとしては気がかりなところである。その上、マリナーズの場合、今季3AでOPS11割3分0厘と打ちまくっている若手大型捕手ジェフ・クレメント(24歳)がすぐ後に控えているだけに、スランプが続いた場合、城島が「難しい」立場に立たされる危険は大きいのである。

#ビル・バベシ
#シアトル・マリナーズ

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