カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:マドリー(スペイン)「日本にも存在する銀河系軍団」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2004/10/01 00:00
一時帰国を終え、レアルの試合を見にマドリーへ来た。
今や成績不振で注目を集める大金持ちのスター集団。
そのなれの果てを、僕は脳天気に嘲笑えなかった。
それにしてもだ。清水のGK、西部洋平選手は可哀想である。9月26日の対新潟戦。彼のセービングは正当だった。ドリブルで迫ってきた新潟の外国人選手エジミウソンを見事な飛び出しでストップしたかに見えたが、山西主審の判定は、イエローカード付きのPK。清水はこれで勝ち点3を失ったといって過言はない。
夜のスポーツニュースが、この事件にどう触れるか注目していたところ、案の定「微妙」。臭いものに蓋をするばかりか、西部選手のトラップミスで奪われた4失点目については「これはマズイですね」としっかり言及していた。
彼にとっては、今季2度目の「惨事」である。1stステージの神戸戦。この時はぎりぎりファールかなーという「微妙」なプレーながら、長田主審が下した判定は「PK&レッドカード」。「黄」でも重すぎるプレーに対「赤」とは驚かされた。その結果、10人になった清水は、播戸君にハットトリックを許し大敗を喫した。
現在、清水の通算順位は13位。最下位柏とのポイント差は7あるが、J2、3位との入れ替え戦に怯える身であることは確かだ。僕が清水の球団社長で、もしチームが2部に転落した場合は、間違いなく裁判に打って出るだろう。ダメもとでも。損害額は10億円では利かない。
僕はいまマドリー。翌朝、成田を飛び立ってやってきたのだけれど、機内で目を通した日本の一般紙、スポーツ紙とも、この件には全く触れていなかった。
スペインリーグでは、主審の名前は試合前も、試合後も必ず掲載される。出身地まで記載される。これから観戦するチャンピオンズリーグに至っては、詳しいデータが記載された資料が必ず配布される。プログラムにさえ出ていないJリーグとは偉い違いだ。それじゃあ、審判のレベルは上がらない。totoだって止めた方が良い。
清水のファンにも不満が残る。なぜもっと騒がないのか。主審にブーイングを浴びせかけないのか。御上に従順な日本人像を見る気がする。主審にコインをぶつけたローマのファンのようになれとは言わないけれど……。もう少し殺気立ってもらわないと、西部洋平GKは浮かばれない。
これから僕が見る試合は、レアル・マドリー対ローマ。少し前なら大の注目カードだったが、いまや違った意味で注目カードになっている。ダメ同士。選手個々の名前は立派だが、それぞれ監督が成績不振で早くも辞任した滑稽なチーム同士の対戦だ。ローマには、例の事件で、残るグループリーグのホーム戦2試合を、観客ゼロの中で行わなければならないペナルティまで課せられているし、マドリーの場合は、もし敗れるようなことになれば崩壊必至だ。銀河系軍団のなれの果てとなるのか。正直言えば、そうなることを僕は密かに期待している。金でスターをかき集めた現在の姿が、僕には凄く傲慢に見えるからなのだけれど、しかし、そのなれの果てを能天気に嘲笑うわけにはいかないゼと囁く僕もまた一方にはいる。
我が日本代表にも、レアル・マドリー的な匂いがぷんぷんするからだ。費やした合宿期間、経費等々はたぶん世界一。日本代表は、とんでもない予算スケールで動いている巨大な軍団だ。これは案外見落としがちな事実である。本来なら、少なくともアジアレベルでは楽勝しても不思議はない大金持ちチームなのだ。ヨルダン、バーレーン、オマーンといった小国に、アジアカップで大善戦を許す姿は、マドリーが、レバークーゼンやアスレティック、エスパニョールに敗れたり、ヌマンシアに辛勝する図と、そっくりな気がする。
そして、来る10月13日にはオマーン戦が控えている。明日は我が身じゃないけれど、もし最悪の事態が起きたら、それこそ日本サッカー界も崩壊だ。それでもクラブとしての歴史が防波堤の役目を果たしそうなマドリーより重症だ。損害額は清水が2部落ちした場合の何十倍、何百倍(いやそれ以上か)に相当する。バブルは完全に崩壊する。日本のサッカー界はいま、思いのほか危ない場所にいる。プロ野球界に対してこちらの方がマトモだと、優越感に浸る余裕はない。日本に不利になる誤審がないとも限らないし……。マドリーにやってきて、いま自分たちの置かれている場所が、より鮮明になった気がする。