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From:ケルン「ドイツへ直行」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2005/06/29 00:00

From:ケルン「ドイツへ直行」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

自宅のテレビで観戦したギリシャ戦、

日本代表が大変身を遂げていた。

次のブラジル戦は現地でと、僕の足はドイツへ向かった。

 パチパチパチ。自宅のテレビ画面に向かって拍手を送ったのは、日曜日の深夜。旅立ちの踏ん切りはつけやすかった。その数時間後、僕は自宅を出て成田に向かった。ピークに達していた「行きたくない」願望は、一転して「いざ出陣」の前向きな気持ちに変わっていた。

 それにしても、だ。日本代表の試合を自宅のテレビで観戦したのはいつ以来だろうか。ともすると、欧州かぶれに見えるこの僕だが、日本代表戦には案外マメに足を運んでいる。欧州でこれは外せないという重要な試合と日程が重ならない限り、極力、出席を心掛けている。コンフェデ杯のメキシコ戦、ギリシャ戦を自宅のテレビで観戦した今回は、きわめて稀な例外的な経験だったのだ。

 理由は簡単だ。取材申請をし忘れてしまったからだ。気が付けば、〆切日は過ぎていた。一息つきたかったこともある。長いシーズンが終わったばかりの欧州に、この時期、勢い込んで出かけるのはナンセンス。イスタンブール、バーレーン、バンコクと来て、休む間もなくドイツじゃあ、シーズンオフもクソもない。メリハリはつかない。そんな訳知り気分に襲われながら、僕は、出発の日を迎えようとしていた。

 自分自身に吃驚した。あれほどダメだと叫んでいた日本代表に、気が付けば、拍手を送っていたのだから。ギリシャに勝った。勝っただけではなく、内容的にも好感度の高いサッカーを披露した。ギリシャの状態が良くないことは一目瞭然だったし、1−0という最少スコアでの勝利にも、不満を持ち出す要素はあった。にもかかわらず、良いものは良いとばかり、無条件に拍手を送った。逆に、あれだけチャンスがありながら1点しか取れないところに、むしろシンパシーを抱いたりした。3−0で勝たなかったことの方を、歓迎する自分さえいた。

 直後から、僕は欧州の知り合いに国際電話を掛けまくり、コンフェデ杯のチケット探しを開始した。行けば何とかなるだろうというそれまでの楽観的かつ、いい加減な姿勢はどこへやら。生真面目なサッカーファンに一変していた。そして明け方までに当たりをつけると、意気揚々と自宅を出た。

 もっとも、いきなりコンフェデの現場に駆けつけたわけではない。どうせならワールドユースの日本対モロッコ戦も観戦しようじゃないかと言うわけで、ドイツ国境にほど近い、オランダのエンスヘデという街にまず出かけた。火曜日の話である。

 この試合については、ここではあまり語りたくない。というのも、そこで僕は、いつもの「日本」を見てしまったからだ。いつもの僕に戻ってしまっていた。不謹慎を承知で言わせてもらえば、僕に監督やらせてくれれば、絶対に勝てた試合となる。

 だが、翌水曜日、僕は嫌みなライターから、純粋なサッカーファンへ、いち早く変身することになる。

 日本代表の試合を見て、隣の観戦者と抱き合って喜んだ経験が僕にはない、おそらく。10代の頃からバイト記者をやっていて、スタンドで観戦した回数が、著しく少ないことも原因の一つだと思うけれど、感情を素直に入れ込める試合に、滅多に巡り会えなかったことも事実。そういう意味でブラジル戦は画期的な試合だった。フリーキックを中村俊輔がセットした瞬間から、立ち上がる準備はできていた。8割以上の確率でゴールを確信していた。だから、そのキックがポストを叩き、跳ね返りのボールが大黒の前に零れた瞬間、他の誰より素早く反応した。勢いよく立ち上がり、言葉にならない大声も発していた。そして気が付けば、隣の知人と抱き合っていた。とても不思議な体験だった。

 もっとも、正直に告白すれば、その一方で、僕は、ブラジルの好プレーにも、気が付けばしっかり拍手を送っていたのである。ちょっと変わったファンだった。いったい、僕って何?血液型はAB+、星座は蟹座なんですが、誰か分析してくれないかナー。ケルンで僕は、自分自身の性格に困惑し、苦笑してしまうのだった。

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