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同時多発テロでさらに揺れる、“英国連合軍”を巡る論争 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byJohn Gichigi/Getty Images/AFLO

posted2005/07/20 00:00

同時多発テロでさらに揺れる、“英国連合軍”を巡る論争<Number Web> photograph by John Gichigi/Getty Images/AFLO

 7月6日、2012年オリンピックのロンドン開催が決定した。ほんの2~3ヶ月前までは誘致は絶望的と見られていただけに、土壇場での大逆転勝利だと言える。この逆転劇の立役者の1人はデイビッド・ベッカムだった。ロンドン・オリンピックの中心地となる東ロンドン出身のベッカムは、最終投票の行われたシンガポールで、IOC(国際オリンピック委員会)の投票者たちにロンドンの魅力を精力的にアピールしたのだった。

 更にベッカムは投票の前日に、サッカー英国代表の可能性にも言及して話題を集めた。「ロンドン・オリンピックでイギリス代表の出場が実現すれば素晴らしい。自分はその頃には37歳になっているけど、現役に復帰してでもオリンピックでプレーしてみたい」

 同じくシンガポール入りしていたイングランド代表のスベン・ゴラン・エリクソン監督も、「(五輪代表の)監督を頼まれれば断る理由はない。イングランドFA(サッカー協会)からも、ロンドン開催なら統一チーム結成はほぼ間違いないと聞いている」とコメントしていた。

 過去にも統一チーム結成を望む声があがったことはあった。但しそれはIOCやFIFA(国際サッカー連盟)からの要望であり、英国内では常に「問題外」の一言で片付けられてきた。英国代表チームの結成には政治的な思惑と歴史の重さが絡み合っているからだ。

 イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの“ホーム・カントリー”は、サッカー国際大会に個別に出場することを許されている。1国1代表が前提の中でこんな特例が認められているのも、英国がサッカー発祥の地であり、ルールの確立などにおける英国の多大な貢献が評価されているからに他ならない。こうした歴史的な背景のため、英国勢はIFAB(国際サッカー評議会)構成員の半数を占め、FIFA内でも強い発言権を持つに至っている。

 FIFAの狙いは国際レベルにおける英国の影響を弱めることにある。オリンピックで統一チーム結成の前例を作ることができれば、それをきっかけに、サッカーの世界においても英国という1つの国としての参加を迫ることができるというわけだ。対する英国勢は各自のステータスが弱まることを十分に警戒しており、スコットランドFAなどは、ここにきて「統一チームに選手は出さない」と改めて断固反対の姿勢を示している。

 一般国民の間の根強い反対意見は、一重に母国への愛情とイングランドへの対抗意識によるものだ。何百年もの間、侵略者であるイングランドと攻防を繰り広げてきたスコットランドやウェールズの人々は、「英国=イングランド」というイメージを忌み嫌う。実際に英国代表を選出するとなれば、イングランドの選手が大半を占めることになるだろうが、「スポーツの祭典の名の下にイングランドの軍門に下れ」とでも言わんばかりの呼びかけに、他の3ヶ国が素直に応じるとは思えない。イングランドを打ち負かすことを至上の喜びとするスコットランド人のファンが、英国代表を鼓舞するために、“Flower Of Scotland”(スコットランド国歌)ではなく、“God Save The Queen”を歌うだろうか?

 サッカーの世界初の公式国際試合は、1872年にグラスゴーで行われたスコットランド対イングランド戦だという。英国におけるサッカーと、それにまつわる隣国同士のライバル関係の歴史は、近代オリンピック(第1回は1896年)の歴史をも上回るのだ。

 このように一筋縄ではいかない統一チーム結成だが、その一方で、オリンピック開催決定の翌日に起こった自爆テロ事件という悲劇を乗り越えるためにも、今の英国に結束力が求められていることも事実だ。実行犯4名のうち3名がリーズを拠点にしていたことから、8月7日のリーズ対ミルウォール戦(1部リーグ)では、過激なミルウォール・サポーターが報復行為に出るのではないかということも懸念されているが、それこそテロリストの思う壺である。誘致成功の祝勝ムードは掻き消されてしまったが、7年後にロンドン・オリンピック成功の祝杯をあげるためにも、私は民族と歴史の壁を越えた“イギリス・ユナイテッド”の結成を願いたい。

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