MLB Column from USABACK NUMBER
勝利の値段
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGettyimages/AFLO
posted2004/12/02 00:00
GMの仕事を一言で言えば、「オーナーから与えられた予算の範囲で、できるだけ強いチームを作ること」となるだろう。その伝で言えば、GMに成績をつけるとしたら、ただ「勝った負けた」でつけるのではなく、「1試合勝つためにどれだけ金をかけたか」でつけるのが妥当だろう。
「1試合勝つためにどれだけ金をかけたか」の計算法を編み出したのが、MLBを経済学的に分析することで知られた研究者ダグ・パパスだ(本職はマンハッタンの弁護士、今年5月43歳の若さで急死した)。パパスの計算式は、(勝利の値段)=(選手の年俸総額ー840万ドル)÷(チーム勝ち星ー48.6)となるが、(1)一番安上がりにチームをつくる場合でも、最低年俸などで840万ドルかかる、(2)どんなに弱いチームでも勝率3割(48.6勝)は上げるだろう、という2点がこの計算の前提となっている。
パパスの式を昨年と今年にあてはめると次のような結果になる。
<ア・リーグ>(括弧内は勝利の値段、単位万ドル)
ベスト4 | 2003年 | 2004年 |
1位 | デビルレイズ(78) | インディアンズ(83) |
2位 | アスレチクス(89) | デビルレイズ(97) |
3位 | ロイヤルズ(93) | ツインズ(104) |
4位 | ホワイトソックス(114) | レンジャース(115) |
ワースト4 | 2003年 | 2004年 |
1位 | タイガース(無限大*) | マリナーズ(508) |
2位 | レンジャース(429) | ロイヤルズ(417) |
3位 | オリオールズ(273) | ヤンキース(333) |
4位 | ヤンキース(270) | レッドソックス(236) |
(*勝率3割を下回ったため、無限大となった)
<ナ・リーグ>
ベスト4 | 2003年 | 2004年 |
1位 | マーリンズ(94) | マーリンズ(98) |
2位 | エクスポス(127) | パイレーツ(100) |
3位 | ジャイアンツ(142) | ブルワース(102) |
4位 | アストロズ(162) | カージナルス(119) |
ワースト4 | 2003年 | 2004年 |
1位 | メッツ(609) | ダイアモンドバックス(2575) |
2位 | ドジャース(268) | メッツ(412) |
3位 | パドレス(240) | ロッキーズ(290) |
4位 | レッズ(238) | フィリーズ(227) |
まず、ア・リーグだが、今年一番安上がりに勝利を手に入れたインディアンズ(1勝当たり83万ドル)と一番高くついたマリナーズ(508万ドル)を比べると6倍以上の開きがあり、GMが金を上手に使うかどうかでどれだけ大きな差が出るかがよくわかるだろう。また、ヤンキースは確かに強いことは強いが、勝利にかかる値段という観点からは決して賢い金の使い方をしているわけではない。昨年も今年もワースト4に入っただけでなく、今年は1試合勝つためにライバルのレッドソックスよりも100万ドル近く余計に金を使いながらチャンピオンの座を奪われてしまったのだから、スタインブレナーの機嫌がよかろうはずがない。
さらに特筆すべきはレンジャースで、昨年のワースト2から今年はベスト4へと躍進した。チーム一のスター(=高給取り)、A−ロッドの放出が大成功に終わったからだが、一人のスーパースターだけに大枚をはたくよりも、「並み」以上の選手をリーズナブルな年俸で集める方が、一般に、金の使い方としては賢いのである。
一方のナ・リーグだが、際立っているのは、マーリンズの金遣いの上手さだ。昨年も今年も勝利を一番安い金で買っただけでなく、昨年はワールドシリーズ優勝さえ勝ち取ったのだから大したものである。それに引き替え、去年(ワースト1位)も今年(ワースト2位)も金の使い方を大きく誤ったのがメッツだ。「高い金をかけているのに負けやがって」と、ここ2年でオーナーがGMの首を2回すげ替えたのも仕方があるまい。