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レアル・マドリー混沌からの再生。 

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中谷綾子・アレキサンダー

中谷綾子・アレキサンダーAyako Alexandra Nakaya

PROFILE

posted2004/10/21 09:43

 9月19日、ホセ・アントニオ・カマーチョはペレス会長に静かにはっきりとただ一言「辞めます」とだけ告げ、レアル・マドリーの監督を辞任した。リーガ3試合、チャンピオンズリーグ(CL)1試合、たった4試合での決断であった。翌日、レアルは緊急記者会見を行なった。そこでペレスは、カマーチョの辞任を受け入れ、その提案に従ってレアルの元GKで第3コーチを務めていたマリアーノ・ガルシア・レモンを、次の監督とすることを発表した。カマーチョ辞任の理由については「カマーチョが辞任した根本的な理由は、マドリディズモ(マドリッド魂)です」とだけ説明。記者からの質問は一切受け付けなかった。

 カマーチョ辞任については、様々な憶測が流れ、いまだに真相は薮の中だ。選手との不仲説が囁かれ、カマーチョの性格の問題も指摘されている。ただ、この辞任劇の根底には最近のレアルが抱えている、選手のモチベーションの欠如、会長の独断による選手獲得など様々な問題があることは間違いない。少なくともサポーターは、そう捉えており、カマーチョが選手に求めた「精神論」が必要だったと思っている。サルガドが「問題が発生すると、どこのクラブも同じだよ。選手が走らないとか、高給でわがままになっているとか、鞭が必要とか、また状況が一変すれば、その反対のことが言われる。でも、サッカーがスポーツであることに変わりはないんだ。バランスを探さないといけない。それがビセンテ(デル・ボスケ)の時にはあった。カマーチョとは、ほとんど時間がなかった。だから、監督と選手の衝突が致命的なものだったのか、推し量ることができないよ」と説明しようとも納得していないのだ。それは、カマーチョ辞任直後のベルナベウでのオサスナ戦で反カマーチョ派のボスと見られていたロベカルに大ブーイングが浴びせられたことにも表れている。この行為にはチームの皆が驚いた。普段は多くを語らないカシージャスが「僕たちに出来ることは、必死になってガルシア・レモン監督について行くことだよ。お互いに死ぬ気でやって行くしかないんだ。良いプレーで勝利するのは基本だけど、今日は特に気合と根性、有効なプレーが必要だった。頂点を目指すには、ひとつとして欠けてはいけないんだ。とにかく、これからを見てほしい」と弁明したほどだった。

 大混乱の中、新監督に任命されたガルシア・レモンは記者会見で「レアル・マドリーは今、私が監督をするのに、理想的な状況ではない」と話し、カマーチョ辞任についても「今のレアルで想定できる最悪の事態である」と悲観論を述べていた。それでも、報道陣からの「今度の監督なら選手は肩をもってくれそうか」という問いかけに、静かにしかし気丈に「物事は今日明日で変わりません。監督として選手の信頼を勝ち取ることから始まります。彼らの助けや協力なしではあり得ないでしょう。これからの一日一日が大切になってきます。私は彼らを信じることから始めます。監督とチームの一体感、互いに支え合う敬意と信頼感が何よりも必要ですからね。私には魔法の杖はありません。ピッチにおいて主役は、首脳陣ではなく選手たちです。彼らが反応しない限り何も起こりません。サポーターに求めるのは、舞台上の彼らに自由に表現させてあげて欲しいということです」と答えた。目指すサッカーについても「カシージャスをサイドでプレーさせたり、ロナウドをGKにするといった革命を起こす気はないので、期待しないでください。レアルには夢のような優秀な選手が揃っています。結果はまだ出てませんが、落ち着いてチームを見守ってください」と語り、改革への意欲を見せた。

 この発言や態度は選手にも届いたようだった。一連の騒動で、口を閉ざしていた選手たちも、正直な気持ちを話し始めた。24日にはフィーゴが選手として初めてカマーチョの辞任について、はっきりした意見を表明したのだ。

 「カマーチョの辞任には正直言って驚いたよ。一緒に過ごしたのは短い期間で、たった2試合悪かったからって、タオルを投げるのは良くないと思うね。直接話していないから、俺は何が起きたのかは知らない。理由も知らないし、何故俺に話してくれなかったのかも理解しきれていない。俺個人は、彼と衝突したことはないよ。勝者の魂を持った人物に見えていただけに、突然いなくなったから驚いた。何がそう決断させたのかは分からないけど、ひとつ言えるのは、俺が彼の立場だったら同じ行動は取らなかったということかな。この騒動で選手の状況は最悪だよ。俺らの多くが、何がカマーチョにそうさせたのかが分からないままさ。多くの人が監督の辞任は、選手のせいだと言うけど、彼はキャプテンたちとだけ話をした。他の選手とは話していないんだ。俺個人は、良心の咎めはないね。俺の唯一の味方は仕事だ。チームのために最善を尽くしている。悪い日は別として、俺はプレーして勝つことが好きだ。クラブとの契約があり、たとえ誰であろうと、目の前にいる監督に自分の全てを投げ出すよ。人それぞれに、その人の在り方があって、それをリスペクトしないとね」

 突然の監督辞任、ベルナベウでの大ブーイングでチームは動揺したが、“裏キャプテン”フィーゴが一定の見解を示したことで、やや落ち着きが見えてきた。無名の新監督の姿勢が、選手、ファンを冷静にさせ、騒ぎの沈静化につながったのだ。そのガルシア・レモン監督に、CLのローマ戦前日の練習場でインタビューすることができた。

 大変な1週間でしたが、あなたは、カマーチョとはどのくらいの付き合いだったのでしょう。

 「長い付き合いだね。親友でもある。カマーチョとの最初の仕事は'88年から'90年あたりだったかな。僕らが監督業を始めた頃で、1年間一緒に仕事をしたんだ。レアルの2軍の監督を私が務め、彼が副監督をやっていた。その後、彼はラーヨ・バジェカーノでプロの監督としての道を歩み始め、僕は僕の道を進んだんだ」

 プライベートでの付き合いもあると聞いています。

 「そうだよ。お互いマドリッドを拠点にしてきたから、ほとんど毎週のように仲間同士で集まっては食事をしたり、遊んだりしてきた。だから、他人ではないんだよ。選手時代からの友情で、別のビジネスでの共同経営者でもある」

 だから、カマーチョはレアルの監督に就任する時に、まず、あなたを誘ったんですね。

 「そうだね。僕らの友情はビジネス上だけではないんだよ。共に過ごして来た時間は、本当に長い。ビセンテ・デル・ボスケ、ホセ・カマーチョ、そして、私のトリオは、約12年間、一緒にレアルのトップチームで選手だったんだよ」

 そのデル・ボスケがレアルの監督を務めて解任され、ケイロスを経て、カマーチョの監督就任、その辞任を受けてあなたが監督になるなんて。不思議な運命の巡り合わせですね。

 「腐れ縁なのか……そうとも言えるね」

(以下、Number613号へ)

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