Number ExBACK NUMBER
平山相太は覚醒するか。
text by
槙野仁子Yoshiko Makino
posted2007/08/09 23:58
平山相太は飛んでいた。
「はい、ジャンプ!」
「合わせる、そう!― はい、もう一度!」
FC東京監督、原博実の声が、昼下がりの人もまばらなグラウンドに響き渡る。その声の先では、平山が原の両手から空へと放たれたボールに右へ左へと揺さぶられながらも、何度も何度も食らいついていた。190cmの体は宙に浮かび、タイミングを見計らっては頭で合わせてボールを再び空へ。今季頭の石垣島キャンプからよく目にする光景だ。この日も、原と平山によるマンツーマンのヘディング特訓が練習後、行われていた。
北京五輪出場を目指すU-22日本代表では、ここぞの場面で得点を挙げてきた平山だが、所属のFC東京では今季、リーグ戦18試合を消化した時点で、6試合に出場し無得点と振るわない。現在は試合のベンチにすら入れない状況にある。
原は平山の現状をこう分析する。
「平山の場合は本当はもっとヘディングが強くないといけない。だけど、今の彼は、背は大きいけど、ボールの落下地点に早く入ることとか、正確に狙ったところへボールを落とすなどヘディングの技術を磨く必要がある。試合で前線に置いていても相手から見たら『恐さ』がないんですよ。でかいのに小器用で、何か足元で綺麗なことをしようとして、逆にボールを取られる。難しいボールに体を投げ出してでも頭で合わせるとか、ダイビングヘッドでゴール前に飛び込むとか、そういうのがない。相手が嫌がることを徹底してやることが彼には必要だと思う」
言葉だけをみれば、厳しさが先立つ。だが、監督自らがボールを手にして、個人特訓を長期にわたって行うのは異例と言える。そこには平山への期待が感じられる。
この現状を平山はどう捉えているのか。
「あまり期待されているって思わないっていうか、結構、鈍感なんで。プレッシャーとかもあまり感じないし。自分の武器は体が大きいので『高さ』だと思いますが、自分らしさとなると、とくに『特徴』は……。試合に出られないとつらいけど、いつまでも落ち込んでいてもプラスにならないし。良くも悪くもマイペースなんです」
そんな平山を見て原は言う。
「もっと、こうなりたい、本当にこれをものにしたいっていう眼じゃない。言われているからやっているという感じ。彼の『マイペースさ』は、良さでもあるが、成長をする上でのひとつの壁になっているんじゃないかな」
マイペース。それは平山の持ち味でもある。だが、本来は向上心の強い選手だった。