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リオネル・メッシ バルサで一番幸せな少年。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
posted2005/09/15 00:00
ロナウジーニョを兄に、シウビーニョを父に、デコを個人教師に、エジミウソンを後見人に持つ幸せな少年がバルセロナにいる。
アルゼンチン出身の18歳。なのにチームのブラジル組に可愛がられているのは、ひとつには「少年」より「男の子」の方がしっくりきそうなあどけない様が愛されているのだろう。遠征先でロナウジーニョらの食卓に席をとり「おい、お前、俺たちのテーブルに座らせるアルゼンチン人はお前だけだぞ」なんて軽口を叩かれては、笑顔を返している。
しかし彼が無邪気でいるのはフィールドの外だけ。試合の場に出た途端変身し、もう10年もプロ生活を送っているかのような冷徹なプレーで見る者を驚かせる。また、そのプレーは極めて質が高く、くだんのブラジル組も一目置いている。
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リオネル・アンドレス・メッシ。
FCバルセロナの育成部門が生んだここ数年で最高の選手、いや、ひょっとするとクラブ史上最高になるかもしれない。少なくとも今季のリーガ・エスパニョーラで最も注目すべき1人であることに間違いはない。
アルゼンチン生まれのメッシがスペインのクラブの「生え抜き」になったきっかけは、端的にいうと、月900ドルの金だった。幼い頃から背が低く、11歳のときホルモン分泌の異常と診断されたメッシは、以後毎月の治療にその900ドルという大金を費やしていた。しかし冶金工場で働く父の給金は決して多くはなく、生活はどんどん苦しくなる。ロサリオの町で頭角を現し始めた少年にリバープレートが契約を打診してきたけれど治療費は出さないというし、8歳から所属するニューウエルス・オールド・ボーイズは知らん振りを決め込む。困窮極まった一家は遂に労働条件のマシなスペインへ移住することを決めた。それを知ったFCバルセロナは少年を試し、そのスキルに驚き、すぐさま契約を申し出たというわけだ。
スペインでの治療費はもちろんクラブが負担し、13歳で入団した当初140cmしかなかった身長は2年半で169cmまで伸びた。メッシ自身が毎晩自分の脚に成長ホルモンを注射し続けた成果である。随分痛々しい話だけれど、実際は何の苦痛も感じなかったと本人はいう。
動くメッシを数分間見ただけで合格を決めたカルロス・レシャック元監督は「ロナウジーニョにしかできないことをやってのける」と少年の技術レベルを評する。たとえばボールコントロールが素晴らしい。シュートは巧いだけでなくセンスもある。優れたゲームビジョンを持ち、ゴールに直結するパスが出せる。そしてドリブル。これは特筆に値する。
ボールを持ったメッシは遠慮を知らない。安易な横パスに逃げることなどなく、まずゴールへの道を探る。そこにディフェンダーがいるならば、臆することなくかわしに行く。ただしロナウジーニョのようなボールをこね回すタイプではない。武器はキレとタイミングと段違いの加速。カウンターを得意とするボクサーのように、シンプルな、しかし凄みのあるドリブルでキメる。プレシーズン最後のユベントス戦ではペソットを、カンナバーロを何度置き去りにしたことか。ゼビナもジャンニケッダもひとまわり身体の大きなビエラもファールでしか少年を止められなかった。
その上、若い心臓には毛が生えている。
昨季終盤のアルバセテ戦。87分、エトーに代わってピッチに立ったメッシはその1分後ロナウジーニョのパスを鮮やかなループシュートで決めた。圧巻は、それが数十秒前オフサイドで取り消されたゴールと寸分違わぬものだったことだ。プロだもの、同じプレーを2度繰り返す技術は当然持っていよう。だが、優勝決定前のプレッシャーがかかる試合で、9万人以上の視線を浴びながら、まるで独りで居残り練習でもしているかのように、あるいは百戦錬磨のベテラン選手のように、落ち着いてその技術を活かせる18歳はそういない。正確には17歳10カ月と7日。この日公式戦初得点を記録したメッシは同時にFCバルセロナのリーガ最年少得点者となった。
「試合の度、自分はトップクラスの選手なんだとアピールしている。大人に混じった彼を見ていると、ユースの選手だなんてとても思えない」
育成部門のディレクター、ホセ・ラモン・アレシャンコの言葉にうなずく人はクラブの中にも外にも多い。その1人、チームのプランニングに深く関わるチキ・ベギリスタイン強化担当は戦力としての少年に期待する。
「メッシを入れると試合の流れやリズムを変えられる。これより先、彼がトップチームにいることは非常に大きな意味を持つようになるだろう」
ライカールト監督もメッシの実力を買う。
「とても上手いし、非常に危険な選手だと思う。(6月の)ワールドユースの得点王でMVPだ、トップチームにいてもおかしくはない。彼は左右のシューズに素晴らしい力を宿している。我々と一緒にいるのはそのためだ」
昨季は7試合のみの出場だったが、どうやら今季は出番が増えそうだ。ただ外国人枠の問題は危惧される。チームが持つ3つの枠はすでに埋まっており、昨季はBチームに登録した上で「国内のクラブの育成部門出身でユース年代の選手は、外国人であってもスペイン人として扱われる」という規則を拠り所にプレーしたが、7月、この規則が微妙に改訂された。念のためクラブは協会に照会しており、だから開幕戦ではベンチから外された。協会の返答待ちではあるが、クラブもファンも、そして監督も、楽観的に構えているようだ。申請中のスペイン国籍が取得できるのもそれほど先のことではないようだし。
ところで本人は?
「メッシはすごい選手。何でも手伝ってやれるよう、近くにいてやるつもりだよ」
ロナウジーニョにこんな風にいわれたら、心配することは何もなかろう。