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東方蹴球見聞録。 

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アラン・トネッティ

アラン・トネッティAlan Tonetti

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photograph byEri Okamoto

posted2009/03/26 20:19

東方蹴球見聞録。<Number Web> photograph by Eri Okamoto

 鹿島は攻撃時は4-2-3-1だが、一旦ボールを奪われるや瞬時に4-4-2に変化するのも見事だった。この自在な変化を可能にする上で最も重要なことは両サイドMFの中央への(DFラインを補佐するための)絞りだが、これも完璧。欠点をあげるとすれば前半の15分間、相手ボールの際に全体をコンパクトに保てなかったことに限られる。ただ、これは鹿島のミスというよりは、相手の混乱が伝染していたからだろう。

 その相手、浦和の状態は最悪だった。聞けば今季から新監督が就任したばかりで、昨季までの戦術から大幅な転換を図っているという。試合後に監督が会見で語ったように、機能するまでには確かに多少の時間はかかるのかも知れない。とはいえ、『今季からの我々は4-4-2でプレーしている』というコメントには正直なところ驚いた、というよりまったくもって理解に苦しんだ。試合開始からしばらく、僕には3バックに見えたのだから。

 しかも中盤の動きに統率のない3-4-3、実際には3-1-5-1のような感じだった。問題は右のSBの細貝だ。4-4-2ではCBを軸にDFラインを狭く保つのがセオリーで、あれだけ遠い位置にSBが位置することはありえない。味方が攻撃するときにはDFラインより低く、守るときにはラインよりも高い位置に。わざとやっているのかと思うほど、完全にあべこべのポジションだった。したがって、無用の注意を背後に払わざるを得なかったポンテのできが悪かったのは当然。あれでは味方中盤のサポートも不可能だ。中盤の選手が塊となって存在していて、ボールの方向に集団でただ移動しているだけという状態だったのだ。

 当然組織として統率がないチームは選手たちに無駄な消耗を強いて、集中力を奪っていく。とりわけ強く印象に残っているのが、前半43分のプレー。浦和DFがクリアし、ボールがセンターサークル付近に達した場面だ。そのポイントにいたのは2人。鹿島MFの本山が猛然とボールを取りに行ったのに対し、もう一方の浦和MF鈴木はそれを傍観していた。日本のマケレレとも呼ばれ、'07年のクラブW杯でミランを最後まで苦しめた鈴木がなぜ……。怪我でもしていたのか、あるいはプレーする気が全くなかったのか。イタリアであればあれだけで交代を命じられても仕方のないプレーだ。

 浦和にとって、次の3点が急ぎ改められれば、監督の目指すシステムは機能するだろう。4-4-2のセオリーに則った中盤の構成。右SBのポジショニング。守備に徹するCBの存在だ。そしてもう1点、あえてつけ加えるとすれば、より頻繁にFW2枚が交差する動きももっと必要ではないか。例えば前半の20分、ボールを持って上がるMFの前方で、2人のFWはクロスせず、なぜか共に両方のサイドへ開いて行ってしまっている。これではみすみす相手の守備網へはまりに行くようなものだ。鹿島のように組織された4枚のディフェンスを崩すことは望むべくもない。

 しかし日本に来たのは3回目だが、この試合でなによりも驚いたのは、ピッチ上のことよりも、スタジアムの光景だった。まるでピクニックへ向かう途中のような家族連れ、だけでなく何と若い女性だけのグループが何組もスタジアムへ笑顔で歩いているのだ。敷地内にはゴミ一つ落ちておらず、見ると細かく分類するためのゴミ箱が整然と置かれ、若者からお年寄りまで全員きちんと喫煙場でタバコをふかす。タバコどころかマリファナの臭いがゴール裏に濃く漂うのがイタリアのスタジアムなのだが、ここでは、その場所に1歳にも満たない赤ちゃんまでがパパと一緒に座っている。これを奇跡と呼ばずして何と言おうか。ティフォージ(熱狂的サポーター)同士の衝突と暴力と無秩序を週末のたびに眼にする僕らからすれば、夢をも超えた世界だった。

 

ジェフ市原・千葉 0-3 ガンバ大阪

 

 3・7(土) @紀尾井町

 

 紀尾井町の編集部に戻り、デリバリーしてもらったポルチーニ茸のピッツァをほおばりながら録画で観たのは、千葉対大阪。大阪もまた鹿島と同様、実にオーガナイズされたチームだった。中でも遠藤は(もはや代表で長く主軸であるらしく、今さら僕が言うまでもないのだろうが)とにかく「素晴らしい」の一言に尽きる。彼が中盤で的確に、しかもシンプルにプレーするがゆえに、DFが落ち着き、攻めの組み立ても実にスムーズだった。例えば39分の得点を生んだ一連のプレー。起点となった彼は、中盤で実に無理なく、滑らかに動きながらパスを繋ぎ、他の選手がボールを持つと極めて自然に“いつでもパスを受けられるポイント”に動いている。まさに、「俺はここにいるよ。出しどころに困ったら預けてくれていいんだぜ」という感じだ。インテリジェンスとポジショニングの妙。その2つを完璧に備えている。視野も広く、よって常に2タッチ以内でボールをさばける。彼ほどのクオリティがあれば、間違いなくセリエAトップレベルのチームでもスタメンを張れるだろう。

(以下、Number725号へ)

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