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ウオッカvs.ダイワスカーレット 1分57秒2+13分の伝説。 ~秋競馬・名勝負列伝~
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byYuji Takahashi
posted2009/10/08 11:30
2008年11月2日、府中の大舞台で最強牝馬2頭が鬼気迫る激闘を演じた。直線、1頭が渾身の末脚を繰り出せば、もう1頭は驚異の粘りを披露する。走破時計はレコード、ハナ差の勝敗が決したのは13分の長い写真判定の後だった。
この歴史的名勝負に隠されたドラマを、両陣営の騎手、調教師、厩務員、計6人の証言をもとに、細密に描く。
この歴史的名勝負に隠されたドラマを、両陣営の騎手、調教師、厩務員、計6人の証言をもとに、細密に描く。
午前4時、東京競馬場の出張馬房脇の部屋で眠っていたダイワスカーレットの担当厩務員、斉藤正敏は、ゴソゴソという物音で目を覚ました。土間のほうを見ると、スカーレットを管理する調教師、松田国英が上がり框(かまち)に腰を下ろしている。
「寝ていられなくてね」
予定より1時間も早く来た松田は、そう言って苦笑した。
2008年11月2日、第138回天皇賞・秋当日。競馬史に残る名勝負が決着する12時間ほど前のことだった。
――相手はウオッカただ一頭。
松田はそう思っていた。
ウオッカとダイワスカーレット。激闘を繰り返してきた両馬の直接対決は、スカーレットが3勝1敗とリードしていた。が、馬券上の人気も、年間合同フリーハンデなどの評価も、ダービーを勝ったウオッカがつねにスカーレットを上回っていた。
それでも松田は、「スカーレットのほうが強い」と公言してきた。
「ウオッカのほうが強いと思うと、その後ろでも満足してしまうものです。ですから、うちのスタッフには、『ウオッカはスカーレットの2馬身ぐらい後ろにいる』といつも言っていました。マスコミにもそうコメントして、ウオッカ陣営にプレッシャーをかけたんです。馬ではなく、人を壊そう、と」