Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
安藤優也 「仏頂面のポジティブ思考」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byTakuya Sugiyama
posted2008/10/09 20:49
「普段の自分ですか?― 完全ないじられキャラです!― 金本さんとかシモさん、矢野さんにいつもいじられてます」
そんな安藤だが、これまでは笑えない時期が続いていた。'05、'06年と連続で2ケタ勝利をマークし、'07年はエースとしての真価を問われる年だった。しかし、春季キャンプで右足太ももを痛め、開幕は二軍スタート。その後、右肩肩峰下滑液包炎という怪我に見舞われ、シーズンの大半を棒に振った。
オフには投手コーチの中西清起から、「来年は投手陣の柱として考えている。だから、キャンプまでにしっかり身体を作ってこい。それができれば開幕投手。できなければ二軍だ」と檄を飛ばされた。
「'08年は、これからの野球人生を左右する年」だと心に刻み、11月末から鳴尾浜球場で投げ込みを開始した。年末も100球以上を投げ、年始は元日から故郷・大分で始動。休むことなくトレーニングを続けた結果、万全の状態で今シーズンを迎えることができた。5月を終えて6勝。上々の滑り出しだった。
ところが、6月に安藤の身体は悲鳴を上げる。疲労性腰痛。6月2日に出場選手登録を抹消されると、約1カ月間、戦列を離れた。
不安、焦燥、危機。様々な負の感情が、津波のように押し寄せてくるかと思いきや……。
「だいたい12月からだから、1、2、3、4、5。ちょうど半年。シーズンくらいの期間、休まずにずっと投げてきましたからね。なんで、『6月くらいに身体が疲れてくるだろうな』と覚悟はしていたんですよ、フッフッフ。去年のこともあったんで、今年は慎重にリハビリをさせてもらいましたよ」
また、笑った。今度は不敵な笑みを浮かべている。故障は怖くないのか。
「毎回、怪我をして思うのは、『このままじゃ終われない!』という気持ちが強くなること。それに、『怪我さえ治れば絶対にやれる』って期待感もあるんですよね。なんというんですかね、『故障を逆にプラスにしてやろう』というか、変な話、『完治したらものすごいボールが投げられるんじゃないか?』とか、そういう期待があるんです」
素顔の安藤は、よく笑い、いい意味で人を裏切る。自分の投球にはどこまでもストイックなのに、ネガティブになりがちな故障に対しては驚くほどポジティブだ。
「どんな状況でも今の自分に満足したくないんですよね。『俺の力は、まだまだこんなもんじゃない』と。だから怪我をしても気持ちの切り替えは早いほうだし、試合で打たれてもすぐに反省点を見つける。1日、2日、ヘコむこともあるけど、引きずらないように」
進化を信じて疑わない安藤に、最後、こんな質問を投げてみた。「野球人として栄光を勝ち取ることができるのなら、すべてを失えますか?」と。きっと彼は、「それは当然でしょう」と答えるに決まっている。
「『野球とプライベートは別』と割り切りたい自分もいるし、『どこまでもボロボロになるまでやりたい』と思う自分もいる。今はまだ、分かりませんね、ハハハハ」
こちらの思惑とは裏腹に、その答えは、彼らしくマイペースなものだった。