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日韓決勝をソウルで見た! in 蚕室野球場 

text by

吉崎エイジーニョ

吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki

PROFILE

photograph by“Eijinho” Yoshizaki

posted2009/04/08 09:00

日韓決勝をソウルで見た! in 蚕室野球場<Number Web> photograph by “Eijinho” Yoshizaki

韓国野球の聖地でチアガールと一緒に観戦。

 韓国野球の聖地、チャムシル野球場は、バックネット裏と内野席のみが開放されていた。大型ディスプレイに試合展開が映し出される。観客の入りは4割程度。平日ゆえ先のベネズエラ戦よりは少ない客数なのだという。

 それでも試合前から熱気はムンムンだった。応援団のリードの下、韓国発祥の応援グッズ「マクテ・プンソン(スティックバルーン)」をバンバン叩き、サッカーの応援と同じ「テーハンミング(大韓民国)」コールを繰り返す。

 当然、「日本人が来るだろう」といった配慮は一切なされていない。国歌演奏の際、君が代のボリュームが思いっきり小さくなった。試合前から、モロに「アウェー」を感じる。

 落ち着かない状況のなか、オレはスタジアムの女神ちゃんを見つけた。フラフラと引き寄せられるようにそちらに向かっていく。韓国野球の風物詩、チアガールだ。内野席のベンチ上に陣取り、男性の応援団長とともに応援をリードする。

 彼女らは必ず細身・長身・サラサラ長髪・パッチリメイクであり、オレの好みからすると、外角やや低めのストライクゾーンに位置する。アイアムフロムジャパーン。ピクチャープリーズ。日本語は厳禁。写真撮影には成功したが、何も言葉は返ってこなかった。軽い笑顔が返ってきただけ。

 替わりに、スーツ姿の男が歩み寄ってきた。

 うわぁ、やられる。試合前の撃沈を覚悟した。男は胸のポケットからカードを取り出し、こちらに差し出したのだった。韓国語で話しかけてきた。

「撮った写真を、ウェブサイトに上げて、アドレスをこちらに送って下さい」

 名刺には、芸能事務所の社印が。なんだー!? この愛国戦士は、みんなタレントで、応援は芸能活動なのかー!?

なぜか歌いだしたおっさん。本当に試合を見ているのか。

 そこからスタジアムの雰囲気もなんだか楽な気持ちで眺められるようになった。

 なにせ、球場全体が試合の流れをそれほど丹念に追ってないのだ。韓国の投手が2ストライクを取ると、シチュエーションに関係なく応援団長が煽る。

「サームジン! サームジン!」

 ああ、三振ね。

 その応援団長たるや、イニングの間には本気のダンスを披露するわ、歌を歌いだすわでやりたい放題。圧巻は、7回表の日本の攻撃前の出来事だった。

 応援団長に紹介され、なにやら40代後半と思しきおっさん歌手が壇上に上がった。横にいる太鼓係の細身のおっさんとともに曲を披露する。ド下手の英語の歌詞だった。そこまで芸能活動丸出しじゃあ、ファンも怒るんでねぇの? と思ったが、そんな様子もない。曲に合わせて踊っている。

 驚くべきは、それが1-1のスコアで迎えた7回表だったことだ。その時、日本は、ノーアウトから9番片岡易之、1番イチローの連打でチャンスを作り出していた。歌っている間に、点が入りそうになった……。老婆心ながら、こちらが心配するほどだった。

 そうは言っても、9回裏、韓国があとワンアウトまで追いつめられたシーンでは、皆が祈っていた。直後にイ・ボムホのタイムリーヒットが出て、ゲーム最大の盛り上がりが訪れる。スティックバルーンの青い波が大きくうねった。ああ、試合の流れに入ってるんだなぁと感じたもんだ。

反日感情をぶつけてこその日韓戦。むしろスッキリ。

 試合後、韓国ファンの表情は意外とサバサバとしていた。日本のテレビのインタビューに若者がこう答えていた。

――日本と5度も対戦して疲れませんでした?

「いいえ。日本戦以外は、面白い試合はありませんでしたから」

 こちらだって、清々しい気分だった。遠慮のない反日感情のぶつけ方に、「友好」を謳った2002年ワールドカップ以降のサッカー日韓戦にはない、ワクワク感を感じたしね。

 反日とは、野球の楽しさを引き立てる、調味料のようなものなんだろう。それがあれば、スリルが増し、野球の醍醐味も増す。

 帰り際、家路につく野球ファンたちの話に聞き耳を立てた。あるおばちゃんが放った一言に、この思いを確信した。

「イチローを止めなきゃ、日本には勝てないわよ」

 ライバル日本を語るときの彼らは辛さ全開だ。それが可能なのは野球の本当の味を知っているからなんだろう。

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