「じつは承信が2年のときも花園に行けず……出場を逃したときは福岡でサニックスワールドラグビーユース交流大会の予選に出ていたんです。ただ、その大会に出るためにはメンバー28人以上という規定があって、その年はケガ人を含めると少し足りなかった。

　大会参加は諦めて、覚悟を決める意味でも正月から学校で合宿することにしたんです。レンタル布団を借りてきて、教室で寝泊まりするんですが、校舎が古いのでめちゃくちゃ寒い。寝るときはエアコンをつけっ放しにできないですし、灯油のストーブも消しますから。そしたら、承信たちは『2度とこんなことは嫌だ』と言って、翌年度に花園への出場権を獲得しました。

　そんな苦い経験もいまの承信につながっているはず。朝高の生徒には、施設が整ってなかったり、予算面で厳しかったりしても“やったんねん！”という反骨心が根底にあるんです」

©AFLO

◆◆◆

　そんな経験をしてきたからこそ李承信は、日本代表として活躍して、朝鮮高校出身者として新しい道を切り拓きたい思いがあるのだろう。権さんはこう話してくれた。

「大阪朝高も花園に出るときは大阪府の代表やし、ラグビーの街・東大阪市の代表やという気持ちは忘れたらあかん、と承信たちにも話してきました。東大阪市の人たちも花園に出るときは、みんな朝高を応援してくれるんですよ。知らないおじちゃんやおばちゃんも。それは地元の代表だからでしょうね。

　自分たちのアイデンティティやルーツのこともあるけど、やっぱり住んでる地域の代表じゃないですか。ラグビーって、その両方があっていいと思うんですよ。だから承信も日本のラグビーで育ってきて、日本代表のために頑張るのというのが大前提。そのうえで在日の仲間のためと考えているんじゃないでしょうか」

＜《高校時代の挫折》編から続く＞