菅野、浅尾、大谷らより印象に残っている今宮。

　怖ろしいほどのボールを投げつけてきたのは東海大・菅野智之（現・巨人）や日本福祉大・浅尾拓也（現・中日）だし、花巻東高・大谷翔平（現・日本ハム）だって、3年秋の肩の軽い時期だったこともあって、コーチの方の見立てで「軽く150km」は出ていた。だから、今彼が160kmを投げても、あまり驚いていない。

　しかし、印象に残っている投手というと、少し違う名前も浮かんでくる。

　たとえば、現在ソフトバンクの遊撃手として不動のレギュラーをつとめている今宮健太。彼も、大分・明豊高当時は“150km右腕”だったのだ。

　明豊高の練習はアップがすごい。両手に持ったバットを頭の上に掲げ、その姿勢のまま、両翼90m以上のグラウンドを、その日は10周してから“野球の練習”が始まった。

　このアップ、実際に試してみるといい。ある強豪の大学チームは、バリバリのレギュラーたちがグラウンド1周でギブアップしていた。

「投げる前にシートノック受けてきていいですか？」。目をクリクリさせながらそう言って、いいよと返した時には、もうグラウンドに向かって走り去っていった今宮健太。あれだけのアップのあとなのに、スパイクの足の裏をこちらに見せながら走って行った。

かわいい八重歯と、九州男児の肝っ玉。

　そして、炎天下で1時間半。ノックが終わってブルペンにやって来た彼のクリクリの目は、ぜんぜん変わっていなかった。

「投げられる？」「ぜんぜん大丈夫です。毎日こんななんで！」

　そこから始まった全力投球。頭から水をかぶったようなずぶ濡れのユニフォーム姿で、目測140km後半の速球を30球、投げ続けてくれた。

　なんだ、こいつは……。

　そばで見ると中学生みたいな体なのに、トライアスロンみたいな練習を明るく笑ってやってのける。

　こういうヤツがプロになるんだな……。

「別にきつくはないですよ。自分、野球しかできないんで」

　そう言って笑うと八重歯のかわいいヤツだったが、腹のくくり方が絶滅危惧種の九州男児だった。

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