幼少期からの経験が不可欠。ラグビーに限らず、多くのスポーツや芸術の世界で言われる常套句だ。
だが、遅れて始めることは不利なだけじゃない、武器にもなりうるのだ――そう教えてくれたのが大久保直弥だった。
高校時代はバレーボールでインターハイ出場。法大入学後にラグビーを始めたが、頂点とは無縁の4年間。サントリーに入社した際も「不器用だしルールも知らない」と本人が苦笑する“素人”だった。
だからこそ、自分が出来ることには一切妥協しなかった。
「ラグビーはタックルだ」と教われば、踏まれても蹴られても起き上がり、骨軋むタックルを反復した。どれだけ強大な相手にも逃げない勇気と献身で、社会人2年目には日本代表入り。'03年W杯での猛タックルは“ブレイブ・ブロッサムズ”の称号を日本代表にもたらした。'07年度マイクロソフト杯決勝でサントリーが三洋電機を破った“ファイナルラグビー”も、相手のタックルに倒れず耐える大久保がいて初めて成立した。先頭に立って身体を張る姿勢に、ともにプレーした選手は皆「男の中の男」と惚れた。
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photograph by Shinsuke Ida