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「こんなに喜ばなかった優勝監督は見たことない」沖縄尚学・比嘉公也監督が日大三に勝利後も「実感ないですもん」と語った理由《甲子園・決勝ドキュメント》

2025/08/28
優勝決定後、全力で校歌を歌う沖縄尚学ナイン
日大三は4試合、沖縄尚学は5試合。両チームの背番号1は、決勝への道程でひどく消耗していた。野球は情報戦の一面も持つ。プレイボールの2時間前から、すでに戦いは始まっていたのだ。(原題:[決勝ドキュメント]日大三-沖縄尚学「エースで締める逆算」)

 言うか、言わないか――。その対応の違いに自信の多寡が表れていた。

 決勝における試合前の監督取材はプレイボールの約2時間前に行われた。その場で、だいたいテレビ局の記者が先発投手は誰なのかを聞く。中継するにあたり、事前に情報を集めておきたいからだ。

 取材は一塁側ベンチの日大三からだった。さっそく先発投手に関する質問が飛んだ。すると、監督の三木有造は大きく目を見開き「これ……」と返した。

 質問した記者がすかさず「お任せします」と返す。つまり、投手名を明かすか明かさないかの判断は委ねるという意味だ。

 取材終了後に相手チームとメンバー表を交換する。つまり、いずれにせよ20~30分後には敵に先発投手は知られる。しかし、そのわずかな差であっても情報漏洩を防ぎたいという気持ちは理解できなくもない。多数の記者に聞かれ、どこでどう情報が拡散してしまうかわからないからだ。

 三木は笑顔を浮かべて「あの……、はい……」と言葉を濁した。それで察してくれというサインだった。

 警戒心の強そうな監督ならわかるのだが、むしろ、あけっぴろげな性格の三木だけに意外な気がした。三木はこうとだけ言った。

「全員で勝ってきたので、力が残ってるピッチャーで行って、近藤につなげたいと思っています」

 その言葉で想像がついた。おそらく、今大会、初登板の投手を先発に持ってくる。だから慎重の上にも慎重を期したのだ。

 日大三のエース近藤優樹は最初の2試合で完投していた。その疲れを考慮し、三木は準々決勝の関東第一戦は山口凌我、準決勝の県岐阜商戦は根本智希と、いずれも甲子園初登板となる投手を先発で起用。どちらの試合も4回途中、ピンチの場面で近藤を送り込んでいた。この日も同じような青写真を描いていたのだろう。

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photograph by Hideki Sugiyama

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