新しい時代の扉を開けると、太陽と雨の景色が続いて広がっていた。5月28日の横綱昇進伝達式は抜けるような青一面の快晴が茨城を熱く照らし、一般に初披露となった30日の奉納土俵入りは雨粒が時に激しく、時にしとしとと明治神宮の空から降り注いだ。古より大相撲が神事として祈願する五穀豊穣には、そのいずれもが必要不可欠だ。伝統国技の象徴的存在といえる新たな横綱が、対照的な二つの空の下で前途洋々とした一歩を踏み出した。
「おめでとう」。師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)の淡々とした言葉に、一夜明けると「第75代横綱」になる大の里は驚いた。「親方の表情は変わらず、握手もなかった。最初に『おめでとう』と。ただただびっくりした。こんなことを言っていただけたのは初めてだったので……」。
昨年9月の秋場所後の大関昇進と同じように、茨城県阿見町の二所ノ関部屋では横綱昇進伝達式のリハーサルを入念に行った。5月27日午後5時にスタート。伝達式の使者や案内係などの役を所属力士が演じ、関係者らとの乾杯から使者や後援者の退場までを部屋のメンバーだけで舞台の通し稽古のように実施した。もちろん大の里も口上を実際に述べ、この場で「唯一無二」の文言を初めて明らかにしている。
リハーサルが終わると、大の里は二所ノ関親方に呼ばれた。部屋の正面から左側奥にある事務所に入り、二人だけで向かい合った。これも昨秋と同じ展開だ。ただ、大関の意味やもう一つ上を目指す心構えなどを説いた当時とは話す内容が違った。
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